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職場の4月1日付け人事異動が、18日までに解禁された。他機関との転入出、課長級と何段階かに日を分けて徐々に解禁されていたところ、この日ようやく副課長級以下の全ての異動がオープンになったのだった。そしてその中に、自分の名前もあった。配置先は、他機関の青少年交流体験施設の、係長職だった。

 

異動は採用されてからの12年で5回目だから、次が通算6つ目の配属先となる。財務課契約担当の仕事は3年の節目を迎え、そろそろ潮時だと感じていたし、異動対象となることそれ自体には驚きも抵抗感もなかった。ただ、自分にとって大きなインパクトだったのは、今回の異動が2つの「初めて」を含んでいたことだった。

 

第一の衝撃は、「初めての他機関への出向」であることだ。今まで同じ職場で気の知れた長年の顔なじみの同僚たちとずっと過ごしてきたのが、4月からはほとんどが初対面の人たちばかりの外の組織に放り出されることになる。しかも、通勤距離は今の3倍で、自宅からの方向は今の正反対だから、今の通勤ルートの途中にある保育園への朝の送りは時間的にほぼ無理で、迎えには行けるにしても一度自宅を通り過ぎてから引き返す形になる。仕事の内容も、一人で考えて黙々とパソコンと向き合うタイプのデスクワーク中心から、様々な人と関わりながら口と手足を動かしてイベントを企画運営するというフットワークが必要な業務にがらりと変わる。何より大きな変化は、宿泊体験施設という性格上、勤務体系が土日祝休みではない、いわゆるシフト制になることだ。月に2回ほどは宿直もしなければならない。過去の出向経験者には不定休に体が慣れなかったという人もいるし、自分が土日付きっきりで子供の世話をしている今の生活スタイルは見直しが不可避となる。つまり、在籍出向という身分ではあるが、事実上の「転職」に等しい大転換を求められることになるのである。自分はこうした事情を経験者から聞かされてよく知っていたので、2月上旬の金曜日に人事から最初に出向の打診を受けたときは、自分の気持ちはさておき「妻が許すはずがない」とまず思った。実際、家に帰って妻に相談した際は質問攻めに遭った末にカンカンに怒られ、「無理」と突き返されて、一度は断ろうと決心したのだった。しかし、土日の間に妻の心境に変化があったらしく、日曜の夜になって、「行って来なさい」と態度が一変したのだった。その理由は今も謎だが、自分がこれまで家事育児の中心を担ってきたこと、今後も可能な限りそれを続けるつもりであることが評価されたのかもしれない。とにかく妻の了承を得たことで、週明け月曜に応諾の返答をし、今回の異動につながったのだった。

 

第二の衝撃は、「初めて係長に昇任すること」だった。出向に合わせて、今の平職員から、係長に昇任することになったのだが、34才で係長というのは、職場の現在の慣例からは2年早く、さらに10年くらい前だと40才を過ぎるのが目安だったので、年功序列を重んじる風土からするとかなり異例だった。しかも、主任職をスキップしての二階級特進だから、「逝って来い」という悪いジョークに見えなくもない。同い年の同僚はもちろん、先輩さえも飛び越す形になったので、職場に少なからず動揺を与える心配もあった。自分としては係長職を務める能力はすでにあると自信を持っていた(むしろ34才でも遅すぎると思っていた)が、周りからもそう評価されているとは限らないし、上層部がどう考えて自分を昇任させたのか理由はわからない。また、今の職場とは全く違う仕事だから、いくら係長を見据えて仕事をしてきたとはいえ、今までの経験がそのまま武器になるとは限らない。したがって、初めての職場で、初めての係長として、十分に活躍ができるかどうか、今の職場からも、次の職場からも、(おそらく不安混じりの)注目を浴びながらの新たなスタートになることが予想された。

 

そんな前途多難が見込まれる航海に旅立つことを決めた理由は、「次のキャリアへのステップになる」と考えたからだ。係長になることもそうだし、勤務先が変わることもそう。今までとは全く違う仕事をやってみるのは、自分を試すチャンスだと思ったのだ。またそこには、自分がこれまで大原則としてきた「育児と仕事の両立」への継続という挑戦も、当然含まれる。本当の転職なら、馴染めなければ退職するしかないが、出向だからいざというときは元の職場に戻れるし、どのみち3年限りの仕事である。実際途中で帰るつもりはもちろんないが、気持ちとしてはそう考えたほうが気楽に臨めてポジティブになれるというものだ。そんなチャンスをみすみす見送る手はないと思ったし、妻も応援してくれたので、思い切ってチャレンジすることにしたのだった。要するに、理屈は後回しで、「心の声」に従ったのである。

 

そんな今の自分に贈る応援歌は以下の3曲。そして、大学時代の友人K氏の言葉「Take It Easy!」を自分に言い聞かせて、変わることを恐れず、道は確かに続いていると信じて、新しい場所でうまくやっていきたいと思う。

 

坂本真綾「カザミドリ」

坂本真綾「NO FEAR/あいすること」

Perfumeワンルーム・ディスコ 

(90分)