叶わぬ夢

春。それは、終わりと始まりの季節。絶望と希望が、混沌と光明が交錯する年度替わりの季節。事務職員としても、花粉症患者としても、つかの間のうららかでぽかぽかした陽気を楽しむ余裕など、自分にはついぞ持てそうにない、夢幻のような季節。

 

今年も、春が来た。そして、早過ぎ去った。4月下旬だというのに、すでに夏日の日もあるくらいの暑さで、押し入れから引っ張り出した半袖のポロシャツを着たほど。年々早まる夏の長さと過酷さを想像すると、雪に閉ざされる冬への郷愁は募るばかりだ。

 

実に色々な物事が、この1ヶ月ほどの間に移り変わっていった。一番大きな変化は、子供が保育園を卒園し、小学校に入学したこと。毎日ランドセルを背負って学校に行き、帰ってきたら作文やひらがなの練習の宿題をして、寝るまでに翌日の荷物を用意するのが習慣になった。アパートで子供部屋はないので、リビングの一角に机を置いて勉強スペースを作った。保育園のときのような送り迎えがなくなり育児の日課が一つ減ったのは、何だか張り合いがなく、物足りなさを感じるものの、子供は今のところ楽しく学校に通っているので何よりだ。

 

もう一つの変化は、職場で自分の担当係が変わったこと。今まで利用者対応の最前線で責任を持つ担当係長を2年やってきたが、バックオフィスの総務・管理の担当係長に内部異動になったのだ。総務は人事・給与が主な仕事で、管理は会計・施設管理・業者対応が主な仕事だ。幸いにも両方とも過去に経験したことがある業務が含まれるし、内部異動のため自分の前任業務を後任者に随時説明できるのは、自分の引継ぎとしては気楽ではあった。ただ、3年間の出向期間の最終年度での内部異動が、自分の心に残した禍根は、自分が思っていた以上に大きかった。ホップステップジャンプ、ではないが、今までの業務を集大成として3年目でより発展させたい気持ちはあったし、今まで慣れない環境で辛く厳しい日々を送ってきた分、3年目は心にもう少しゆとりをもって楽しむ気概を持てるのではという希望もあった。また、自分が育ててきた「チーム」である同じ係のメンバーと一緒にもう1年仕事をしたい気持ちもあった。そうした期待がリセットされたことの残念さと、新たな担当業務が2つの係を統合して2人分の係長席を1つにまとめた新設ポストであることの困難さが、その原因だ。ある程度心得はあるとはいえ、新しい仕事に慣れるのはやはり大変で、それにも関わらず任期が1年限りというのがモチベーションの維持を一層難しくしている。新しいことを覚えても、来年の自分の役には立たないと思うと、どうにも気が滅入るのだ。いいように使われているという苛立ちを、反骨心というエネルギーに変換するのが関の山だ。

 

そんな訳で、この1ヶ月は怒濤のように過ぎた。生涯現役を目指す自分にとって、春を心の底から楽しむのは、今世では叶わぬ夢となりそうだ。

(60分)