無一文

今日限りで給与の仕事の担当を外れることになった。昼間は出来るところまで仕事を進めようと思ってひたすら机に向かっていたのでさほど実感はなかったのだが、定時を過ぎて上司への仕事の引き継ぎや机の荷物の引っ越しを慌ただしく始めてから、急に心細いような寂しいような気分になってきた。今まで使っていた机が次第に空になっていくのが、自分がここにいた痕跡を消していくように感じられて、少し胸が傷んだ。明日からは、人事給与システムの管理者兼オペレーター(操作者)として全機能にアクセス出来るという絶大なる権限を失うことになる。システムの操作に高度に習熟していたことが自分の強みだったが、それはもはや意味を失う。そして、これまで強力な武器として自分を助けてきた、頭の中に蓄積された給与や税についての専門知識と職員の個人情報のデータベース(必要に迫られて身に着いたもの)は、何の役にも立たなくなる。個人情報はむしろ「担当外の人間が知っていてはいけないこと」だから早く忘れるべき知識ということにもなる。問題が起きたときは、バラバラの情報を頭の中で統合して、過去の様々な経験から得られた最適解を弾き出すことで、スピーディに対処することが出来ていたが、そのスキルさえもリセットとなる。それらを全て失った今、自分は再び無一文の状態に戻ってしまった。


明日から新しい部署で、今までとは全く毛色の違う業務を担当することになる。3年前より固くなった頭で、イチから知識と経験を積み上げていくのは容易ではない。不安も小さくないが、本来は外に転出するはずだったことを思えば、内部での異動など大したことではないはずだ。「新しい場所でうまくやっていけるかな」・・・Perfumeの「ワンルーム・ディスコ」のフレーズを心の中で口ずさみ勇気をもらいながら、初心に返ってまた頑張ってみようと思う。

(携帯+PC、30分+15分)