シン・職場百考(6)~宿直勤務

今の職場の働き方には、3つの大きな問題がある。1つ目は「休日が完全ランダムなシフト勤務であり、家族と休日が合わないこと」、2つ目は「シフトの都合で全職員が揃う日がほとんどないので、情報共有や業務の進捗管理に難があること」だ。これらは以前にも書いたとおりである。そして、3つ目の、最大の問題とも言えるのが、「宿直勤務があること」である。

 

職場の宿直勤務は、宿泊利用がある日に職員1人が施設に泊まり込みで翌日まで勤務するもので、管理職を除く常勤職員13人が交代で担当している。自分はこれまで21ヶ月勤務して35回ほど担当したから、平均で月1.5回程度の頻度になる。ただし、繁忙期になるとほぼ毎日宿直が必要になるので、月3回発生することもある。法令上の限度は「週1回まで」となっているので、Maxで月4回まで可能だが、これは現実的には無理がある。なぜなら、精神的・肉体的な負担が極めて重いからだ。その具体的な理由を以下に挙げる。

 

(1)労働時間の長さ

宿直日の始業から、翌日の「宿直明け」の終業までの労働時間は以下のようになる。
1日目 通常勤務 8時15分~17時
    宿直勤務 17時~23時
    仮眠時間 23時~翌6時30分
2日目 宿直明け 6時30分~15時15分 
つまり、休憩・仮眠時間を含めると、始業から終業まで「31時間ぶっ通し」で職場に滞在することになる。ここ数年対応が求められている「勤務間インターバル」(労働者保護のため退勤から翌日の出勤まで9~11時間を空ける制度)はまるで無視か、こんな勤務で大丈夫なのかとツッコミを受けそうな話だが、法令上は宿直勤務は以下のように規定されており、これでも形式上は問題はないことになっている。

労働基準法
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

【昭和22年9月13日発基17号】
原則として通常の労働の継続は許可せず定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態発生の準備等を目的とするものに限つて許可すること。

つまり、宿直勤務は労基法第41条第3号に該当するため、労働時間・休日に関する規定が適用されないし、宿直中は「通常の業務」ではなく「特定の対応のみを行う断続的業務」であり、ほとんど待機時間に過ぎないため、割増賃金や休憩を与えなくてもよいということになっている。ただ、「形式上」はこういう建前だが、実態としては定時の17時以降も多くの職員が通常の業務をそのまま継続しており、優雅に読書をしてのんびりしたりしている訳では決してない。残業中のほかの職員と同じように事務室の自席にいなくてはならないから、利用者からの内線電話による問合せや窓口対応も結構頻繁にあるし、単なる待機時間とは程遠いのが現実だ。しかも、仮眠時間の7時間30分の間に、シャワーや就寝前・起床後の着替え、身支度も済ませないといけないため、実際の睡眠時間(横になっている時間)は6時間あるかないかであり、とても十分とは言えない。さらに、仮眠中にも、火災報知機が誤作動を起こして非常ベルが鳴動して確認や館内放送の対応をしたり、コロナ禍のときは夜間に発熱者が出て別室を用意する対応に追われたりといった「業務」が発生することがある。仮眠スペースである宿直室は、4畳ほどの和室で狭くて冷暖房も十分ではなく、共用の布団はいつクリーニングをされたのかも分からない年代物だ(自分は嫌なので私物のシュラフで寝ている。夏用なので冬は寒すぎてほとんど使い物にならない)し、真冬のシャワールームは凍えるほど寒くて体はいつまで経っても暖まらない。こんな劣悪な条件では、余程図太い神経の持ち主でもない限り、ぐっすり熟睡することなど不可能だ。したがって、実際には、徹夜で丸二日働くのに近く、宿直は極めて過酷な勤務なのである。

 

(2)2日目の日勤

宿直明けで疲労した体にさらに追い打ちをかけるのが、宿直明けの日勤である。宿直が終わった朝にそのまますぐ退勤ならまだ体も休まるが、この日も15時15分までほかの職員と同じように勤務しないといけない。宿直明けメニューの仕事になる訳ではなく、いつもどおりの1日である。ただ、通常の定時より1時間45分早いとはいえ、元々「徹夜明け」なので、朝からすでに頭は回らず、場合によっては呂律も回らず、酩酊に近いヘロヘロ状態になっている。基本的には疲れ切っているが、場合によっては寝不足でハイになっていることもあり、いずれにしても利用者の窓口対応に求められる「元気さ」「さわやかさ」は期待できない。こんな状態で昼食をしっかり食べると午後は眠気で気を失う可能性があるので、宿直明けの昼食はごくごく軽めに済ませるのが基本だし、あえて食べないこともある。また、何とか夕方の退勤まで乗り切ったとしても、家にたどり着くまではさらに30分の車の運転が待っている。運転中に意識が薄くなり、やむを得ず途中で駐車場に停めて仮眠するケースもある。本来運転してよい状態ではないと思われるが、休むにも車がないと家に帰れないのだから、もはや詰んでいる。労働生産性が極めて低い状態で働かなければならない、宿直明けの勤務は人的リソースの浪費だと言わざるを得ない。

 

(3)家族への負担

こうした宿直勤務が本人のみならず家族にも負担を与えるかどうかは、各家庭によってケースバイケースではあるが、我が家にとっては深刻な問題となっている。なぜなら、自分が宿直するときは「宿直勤務日の夜」と「宿直明けの朝」に、子供の世話の負担が妻に集中することになるからだ。こうなってしまうと、妻は「家のことを全部丸投げした」と苛烈に非難してくることになるから目も当てられないし、宿直中も家のことが気になっておよそ平静を保てたものではない。火曜~水曜のような「平日ど真ん中」の宿直は、地雷原でダンスを踊るがごとき目も当てられない危険行為である。かといって宿直を自分だけ無しにできるわけでもない。従って、自分の場合は「金曜~土曜」または「平日~祝日」のいずれかの曜日で、「休前日」を宿直日にするように配慮してもらっている。これは、翌日が休日であれば、「宿直明けの朝」に子供を保育園に送る身支度や送迎をしなくてよいからというのが理由だ。この曜日設定をデフォルト化してからは、宿直中と、宿直明けの帰宅までの精神安定度が格段に改善した。妻も、宿直日の夜や翌日の昼は、子供を連れて外食したり、惣菜で済ませたりして割と好き勝手するようになったので、基本的にはさほど大きな波風は立っていない。宿直日の夜にLINEで連絡すると、子供が回転寿司を食べて喜んでいる写真が妻から送られてくることがあるが、こういう夜は平和である。とはいえ、休みに引っかけると言うことは、少なくとも土曜日は丸1日勤務日でつぶれるということで、土日だからといって家族で遠くに出かけるといったことはほとんどできなくなる。宿直で疲れきってほうほうの体で家に帰ってきたのに、妻から家庭軽視、育児放棄だと罵倒されたときの精神的ダメージは計り知れない。この意味で、家のドアを開けて妻の顔色・声色を実際に確かめるまで、宿直明けの不安は消えない。

 

(4)リカバリータイム(回復期間)の長さ

さて、宿直明けの勤務が終わって家にたどり着き、幸いに妻も子供も元気でご機嫌であれば、これで晴れて一件落着かというと、そうでもない。なぜなら、宿直による体への大きなダメージが残っているからだ。寝不足ということもあり、その日の夜まではヘロヘロ状態が続くし、場合によっては翌日もぐったりしている。そのため、自分は宿直明け翌日に必ず公休日を入れるようにしているし、多くの職員も同様にしている。20代の職員でさえ宿直明け翌日は疲れて午前中いっぱい寝ていることがあるほどなのだが、自分の場合は、家族を放って寝ているわけにもいかないし、自分の心情的にも遅起きは嫌なので、宿直明け翌日は休日であっても7時台には起きるようにしている。通常より長い7~8時間程度は睡眠を取ることになるとはいえ、前日の寝不足のリカバリーはできていないことが多く、この日も頭も体もすっきりしない状態で過ごすことになる。おそらく、思い切り体を動かして目一杯疲れてから、ぐっすり眠れば体力気力ともぐーんと回復するような気がするのだが、自分の曜日設定上、宿直明け翌日は基本的に日曜日であり、家族と過ごすことが基本なので、そういう過ごし方は不可能だ。ましてや、30代後半ともなると、加齢でただでさえ疲労の回復期間は長くなってきている。「週1回」のペースで宿直が続くと、だんだん回復もままならないようになってきて、負の循環に陥ってしまう。

 

・・・という訳で、宿直勤務は労働者の側面からは「百害あって一利なし」であり、実態を考えると「そもそも宿直させていい業務ではないのでは?」という疑念も浮かんでくる。多くの職員は、宿直を嫌がっているし、少なくとも好きではない。残業は原則禁止の職場なので、23時まで「勤務できる」ことを「宿直チャンス」と呼んでいる職員も稀にいるが、これは例外である。宿直手当が1回6100円(全職員定額)というのも安すぎて割に合わない。出向期間中だけの特殊な勤務とはいえ、制度的に可能であれば、宿直は廃止するか、少なくとも22時から仮眠時間にするように緩和すべきだと強く願っている。

 

(120分)