老化の波

子供の目覚ましい成長ぶりには、日々驚かされるばかりだ。食事のときの箸の使い方も、家の階段の上り下りも、三輪車の漕ぎ方も、特に教えたこともないのに気付いたら自力で身に着けてしまっていた。食器棚の扉を開けられないように取り付けたベルトタイプのストッパーや、チャイルドシートのベルトまで自分で外せるようになっていたのだから、「自分で!」という子供の口癖の有言実行っぷりには全く恐れ入る。


なんと言っても一番驚いたのは、トイレでの排せつの習得のスピードだった。今年6月にトレーニングパンツを買って、家でのトイレトレーニングを始めたところ、「お姉さんパンツだ!」と言って喜び、自ら進んでパンツを履くようになった。するとそれまで常にオムツで用を足していたのが嘘のように、日中はおろか睡眠中でさえもパンツ・オムツを履いた状態で漏らすことがほとんどなくなり、自分でトイレに行って用を足せるようになった。補助便座とステップも大人のやることを真似してすぐに自分で取り付けられるようになったものだから、器用なものだと感心した。そして、半年くらいかかるのではないかという自分と妻の予想を裏切り、3歳になるのとほぼ同時にわずか1ヶ月ほどで完全にオムツはずれができたのだった。その後も現在までリバウンドもなく、せいぜいたまにおねしょをしてしまうくらいで、パンツスタイルは完全に定着。オムツはずれまでの親の側での苦労は、ほとんどゼロだった。これにより月4000円ほどかかっていたオムツ代が浮き、ゴミの量も大幅に減ったほか、子供を連れて外出する時の荷物の種類も少なくて済むようになるなど、日常生活に大きな変化が生じた。買い置きしていたオムツの在庫は今も家の中で眠っているが、近いうちに保育園に寄付するつもりだ。保育園の協力があってこその成果であることは間違いないので、少しでもその恩返しになればと思っている。


そうした子供の成長と好対照なのが、最近の自分自身の心身における衰えの加速である。例を挙げればこんな感じだ。

・デコボコや段差の何もない廊下で足のつま先が突っかかって、歩行の途中でバランスを崩しそうになる。爪先の長いビジネスシューズのときはもちろん、スニーカーを履いていても、「何物か」に引っかかる。

・廊下の曲がり角や部屋の出入り口を最短経路ですり抜けようとしたところ、頭の中でのイメージ通りに体がついてこず、肩や足を壁等に思い切りぶつけて痛める。

・掴んで持ち上げたものをちゃんと掴めておらず、床や机の上に落っことしてしまう。それが飲み物の入ったコップだと悲惨なことに。

・あらゆる対策、努力にも関わらず頭髪の希薄化が進行する。

・サイクリング中、20代の頃は普通に走っていても気付くと後方に千切ってしまっていた年上の同僚に、今は全力で漕いでいても置いていかれてしまう。

・とにかく風邪を引きやすくなる。特に子供が鼻水を垂らし始めると絶対に伝染る。しかも子供は翌日には治るのに、自分は一週間以上経たないと治らない。

・子供の頃は当たり前に出来た公園の雲梯をやってみたら、今は一つも前に進めないどころか、ただぶら下がるのもしんどく、即リタイア。 

・20代のころはほぼ皆無だった頭痛が、仕事に疲れてくる平日夕方に頻発するように。

・体が「元気だ!」と心から実感できることがない。常にどこかしらの調子が悪く、それにつられて気分もあまり晴れない。

…と、ちょっと思い付いただけでもこんなに挙がるような体たらくで、全く情けない限りだ。内閣府の定義では確か34歳までは若者に含まれるはずだから、32歳11ヶ月の自分はまだ堂々と若者と名乗っていい年齢と言えるのだが、この有様ではとてもそんなふうには胸は張れそうにない。とにかく、持久力、瞬発力、バランス感覚、それに加えて見た目の印象といった部分で、衰えが甚だしいのである。残念なことこの上ない。


限られた時間の中でできる対策としては、子供と一緒に全力で遊び、それをトレーニングとして生かす、これ以外にはないと思う。子供の体力は無尽蔵だから、付き合う大人にも当然高い体力が要求される。今はおんぶ、高い高い、お馬さんといった要求に全て応え切れず、途中でドロップアウトしてしまっているが、これをトレーニングだと思って、もう少し限界近くまで頑張ってみるのだ。そうすれば少なくとも、次第に筋力と体力だけは向上することが見込まれる。瞬発力や見た目は、もう今更どうにかできるものではないので、この際いっそ諦めるのも肝心だ。さして残り長くもないだろう人生をより有意義に生きるために、怒涛のごとく押し寄せる老化の波に対して、どの部分では抗い、どの部分ではあえて受け入れるのか。今まさに、取捨選択の岐路に立たされていると感じている。

(90分)