会長

今夜は職場の若手の飲み会だった。名目は新人歓迎会。年度初めだとなかなか予定を合わせづらいので、歓迎会にしてはちょっと遅いが、毎年5月半ばごろにやっている。やる日だけ先に決めて、新年度初日の4月1日早々にアナウンスしていたのが奏功し、20人もの大人数で開催することができた。年の近いヒラ同士で気を遣う必要がないこともあり、終始和気藹々とした非常にいい雰囲気で大盛況の3時間だった。


これまでしょっちゅう若手の幹事をしてきた自分だが、今回は直接の幹事はせず、3人の後輩を幹事に任命し、役割分担させて、自分自身は「アドバイザー」という形での関与にとどめた。後輩に幹事をやらせることで、事前調整したり、場を取り仕切ったりする経験を積ませるためだった。一方で、司会役のために進行メモ(台本)を書いてあげたり、ビンゴゲームの景品を提供したり、幹事のコツを伝授したりといった協力は惜しまなかった。そうした細かい配慮とサポートをしたことも、スムーズな運営に寄与したのかな…と自画自賛してみる。それくらいに、今夜は楽しくきれいに終わることが出来た。繁華街の居酒屋ではなかったので二次会は出来なかったが、「もう少し話したかった」くらいの物足りなさが残るくらいがちょうどいいというのは、経験上はっきりしている。いわゆる「限界効用逓減の法則」というやつで、たいていは飲み会が長引くほど会話の内容が薄れてつまらなくなってくるものだからだ。近頃は今回のパターンよろしく、飲み会のきっかけを作る「言い出しっぺ」になって、その後はサポートに徹するというパターンが増えてきた。そのほうが全部自分ひとりで切り盛りするより気楽だし、会に幹事ごとの個性が出て面白くもある。ほかの人に幹事を頼むときには、お菓子を手土産に持っていって「折り入ってご相談したいことがあるのですが」といった感じで丁重にお願いすると、たいてい割とすんなり引き受けてもらえる。この「お菓子外交」戦術によって、社内における今のポジションが築かれたと言っても過言ではないくらい、自分はこの方法を多用している。


また、今夜は若手の有志組織を正式に発足させ、自分が初代の「会長」に就任した記念すべき日でもあった。全10条からなる「会則」(案)を作って事前に若手に周知しておき、飲み会の冒頭で承認を取り付け制定。そして施行された会則に基づき、直後に最初の「総会」を開いて会長に立候補し、承認を得て組織を発足させるという、職務上身に付けた事務スキルを駆使した手の込んだやり方である。なんでこんな手続きを踏んでまで会則の制定にこだわったかといえば、その理由は2つある。一つは、「これから若手の活動をより活発かつ円滑に展開していくための土台固め」のため。これまでの若手の飲み会や読書会は、「若手の会」という自然発生的な名称の下で自分が音頭を取って有志で行われてきたが、職員採用によってどんどん20代が増えるにつれて、会の内外から「どこまで(何歳まで)が若手なんだ」「自分は若手と呼ばれるには抵抗がある」といった問い合わせ(時には苦情)を受ける機会も増えてきていた。また、この会が自分の「派閥」ではないかということが方々で喧伝されるようにもなり困ってもいた。そういった問題に対処するため、会の性格を明確に示す必要に迫られたことから、会則を作ることにしたのである。この中で、会の名称、参加要件(年齢上限)、活動内容、目的等が明文化されたことで、問い合わせに対して明確かつ確実な「根拠」を説明することが出来るようになったのは、大きな成果だった。目的で、会員相互の信頼関係を深め、学習の機会をつくることで組織の発展に資すると謳ったので、若手に対しても、目指すべき目標を共有しやすくなったのではないかと期待している。そしてもう一つの理由は、「会長の役回りをほかの人に引き継ぐ」ためだ。自分で会長に立候補して選任されておきながらおかしな話に思われるかもしれない。だが、選任される前から、これまでも自分は「事実上の会長」として若手のために必要と思われることを色々と自発的にやってきた。これを自分がやらせてもらえることは、自分にとってもいい経験であり、ありがたいことだったが、一方で自分がいなくなって立場を退くべきときが来た時に、これまでの活動を誰が引き継ぐのかという不安、懸念が常に頭の中にあった。自分が転勤を命じられてよそに行くことになった時に、急にほかの人に「来月から頼む」と言っても、「任意の活動」をこれまで通りやってもらえるかどうか分からないし、ノウハウのようなものを伝えられない恐れがある。何より、恣意的に後任者を任命すると、全体からの支持が得られず、会がうまくまとまらなくなる可能性もある。従って、自分のポジションを確実にほかの人に譲り渡し、スムーズに引き継いでもらうためには、正式に会長という役職を作って、それを総会の決議を得て1年交代で回していく制度を「組織の中に組み込む」必要があった。自分が会長になったのは、来年の春に「事実上の会長」から退くための布石であり、会則の制定によってそれに向かうレールが敷かれたのである。


ということで会則制定は非常に大きな意味があったのだが、まあ自分以外の若手にとっては「『会長』がやりたいっていうから、よくわからないが付き合ってあげた」くらいの温度というか、受け止め方かもしれない。順番が逆といえば逆なのだが、まずは型を作ってその枠組みの中で組織を回していくことで、会則の必要性、メリットについて自然と理解が深まっていくのではないかと思っている。とにかく今夜はうまくいってよかった。名実ともに会長になったわけなので、これからはまた新たな気持ちで、若手の諸活動に精力を傾けたいと思う。

(70分)