孤高の人

最近、「孤高の人」という漫画を読んでいる。今日は既刊の9巻のうち8巻までを6冊まとめて読んだ。


この作品は、人となじめず、社会にうまく適応できない男、森文太郎が、クライミングと出会って才覚に目覚め、その道にのめりこんでいく姿を描いた登山漫画だ。森という人間は孤高(気高くて人が近寄りがたい)というより、まだ孤独(人とうまく付き合えない)なレベルなのだが、巻が進むに連れて社会から、周りの人間からのつまはじきのされ方が酷くなっていって、何か同情してしまった。それと同時に彼には半分だけ共感もした。共感したのは「人といるときは自分を見失い、独りでいるときにこそ安らぎを感じる」という点。反対に共感しなかったのは、「安らぎの場を山に求めた」点。正直自分は人間がレジャー目的で山に入るのは環境破壊以外の何物でもないと思っているので、安易な登山はあまり好まない。また山に敬意を払った上で限界への挑戦として登山をするのも、否定はしないが、捨てなくていい命をわざわざ捨てに行くような行為として、あまり感心しない。そうした見方は、この漫画を読んでも変わらなかった。しかしこの漫画の本質は登山そのものにではなく、そこにおける人間劇にこそあるので、それは深い感慨を持って味わえたし、楽しめた。この漫画では、実在の日本の山が出てきて、その厳しさと美しさが緻密な描写によって圧倒的な迫力を持って表現されているが、それは人物の表情においても同様である。山は、人間と人間がぶつかりあい、その本性をさらけ出す場であり、森の様々な葛藤が繰り返される。森の心情に共感できるかどうかは人それぞれかと思うが、いずれにしろそこにこそこの作品の醍醐味がある。青年誌に連載しているからこそ出来る人間描写というのも多分にあるし、山を好むか好まざるかに関係なく、大人の男なら誰でも一読の価値はあるんじゃないかなと思った。


作品の本質とは関係ないけど、7巻の表紙の「ハエ」は一体何なんだろうか?気になる・・・。

(60分)