焼肉ロッヂ

午後、アパートに帰ってきた直後に、Sがやってきた。某授業の過去問を解いているのだが分からない問題があるので解いて欲しいということだった。自分は去年その授業を取ったことがあり、自分の専攻した環境経済学の授業でもあるため自分に頼ってきたのである。自分は人の世話を焼いてあげられるほど余裕があるわけでもなかったが、断っても聞いてくれそうにはなかったし、彼が自分に任せて授業に行ってしまったので、仕方なく引き受けた。こういうのは初めてではなく、前期にもレポートみたいなのを代筆させられた。彼はそうして人の力をうまいこと借りてこれまで多くの単位を取ってきたのである。専門は久しく授業を受けていないので経済学の知識はかなり頭から抜け落ちてしまっていたが、去年のノートやネットの検索結果、文献とにらめっこをしつつ、だらだらと4時間くらい作業をして適当にそれらしい形にしたら、喜んでもらえたのでまあよかった。


時間も時間だったので、飯を食いに出かけた。定食屋の予定だったが、Sの提案で「焼肉ロッヂ」に決定し、そこに入った。焼肉を食べ放題の店とは知っていたが、入るのは初めて。入った瞬間、空気が白く煙っていてびっくり。メニューを見たらサラダやご飯ものも食べ放題で更にびっくり。普通にメシを食べるだけという気持ちで来たのだが、焼肉を前にどうしてもビールが飲みたくなったようでSが「飲もうぜ」と持ちかけて来た。ここまでは彼の車で来ている。飲んだら車を置いて、歩いて帰らざるを得ない。この寒い中を30分も歩く?そんな面倒はゴメンだ。そう思って、自分は酒を飲まないことにし、ウーロン茶を飲むことにした。帰りの運転手を自分が引き受け、Sだけ飲んだ訳だ。自分は別に飲むと格段陽気になったり饒舌になったりするタチでもないし、焼肉を味わいたかったので別に不満はなかった。さて、自分は食が細いほうだし、ましてや肉をがつがつ食べるなんてことは全然ないので、最初はマイペースに食べるつもりだった。だがSが「食わなきゃハドソン(古っ)!」とばかりに肉を次々に注文し焼き網に投入していったので、自分も合わせざるを得ず、二人であくせく焼いては食べ焼いては食べを繰り返すことになった。Sは何度か来た事があるようだったが、そのときは後輩が焼くのを担当し、代金は先輩持ちだったとのことで、「あんときは楽だったな」とかぼやいていた。肉の種類は豊富で、どれも美味しかったしご飯によく合ったが、なんせ頼んだ量が大量だったので、最後のほうではもう腹がぱんぱんに膨れてしまい、これ以上は受付けないってくらいまで食べてしまった。残したらダメとか店員から言われていたし、肉になった牛さん、豚さん、鶏さんに申し訳ないので、何とか全部食べきったのだった。いや、大変だったね。焼肉定食6、7人前の肉は食べたんじゃないだろうか。いやもっとかもしれない。普段は全然カロリーとかを気にしない自分も、さすがに今回ばかりは健康を不安に思ってしまった。まあ1度くらいは大丈夫だと思いたい。2時間ほどの滞在中、色々話をした。主に先の見えた将来に関しての、現実的で、不安交じりの所帯じみた話が中心だった。I県T市の研究機関に勤めることになるSは、見知らぬ土地での初めての一人暮らしに不安を募らせているようで、「車買ったら遊びに来いよ」としきりに言っていた。地元で実家通いの通勤を始める自分とは、不安の質やレベルも全然違うのだろう。ただ何事にも器用で人並みに人間経験も豊富な彼のことだから、新しい環境にも割合すぐに慣れるんじゃないかと自分は楽観視している。大学生活については、自分は長かった、彼は短かったと感じていて、思ったとおり印象は分かれた。だがこうした機会がもう数回しかないであろうことへの残念感は共通していたのだった。そんなこんなで2時間で店を後にした。かつ一の定食2食分の飲食代は彼が持ってくれるのかと思っていたが、さすがに無理なようだったので、帰りにコンビニで淡麗生を買ってもらうで我慢することにした。


アパートまでの帰り道は自分が運転した。素面だったが、つい10日前に自分が雪道で事故を起こしてしまった車(その後遺症か異音がしていた)だったため、40km/h以上出さなかったにも関わらず運転中はとても緊張していた。無事アパートまでたどり着けたときは、心底ほっとしたのだった。やはり人の車など運転するものではないな。その後は、焼肉のにおいが染み込んだコートをファブって、缶ビールで一杯やった。これを書き終えたら座椅子で寝る予定。Sはベッドでとうの昔に寝てしまっている。結局今日は自分のテスト勉強は全くしなかったわけだが、最初のテストは3日後に迫っているので、明日こそはバリバリやっていきたい。

(70分)