29

年の瀬の足音が聴こえてきつつある中、毎年恒例の記念日がやってきた。今日は、自分の29才の誕生日だった。思うところは色々あるが、まずは、健康に、無事に年を重ねることができたことを素直に喜んでおくとしよう。


昨日と今日の自分に、特別な変化はないのだが、去年と今の自分を比べると、大きな変化がある。実家暮らしだったのがアパート暮らしになり、毎日遅くまで残業して休日も出勤していたのが19時までには帰れるようになり、何より独身だったのが既婚者になった。この変化は非常に大きなものだ。今夜は、妻と二人で19時からイタリアン・フレンチのお店に行き、ディナーを食べた。他にお客はおらず、貸し切り状態だったこともあり、おしゃれで静かな店内で落ち着いて食事ができた。誕生日プレゼントは今度一緒に買いに行こうという話になっていて、今日のところは何ももらわなかったのだが、妻が素敵なお店で二人で過ごすことができて楽しいとしきりに喜んでいる姿を見られたので、それが自分にとっては一番のプレゼントだった。これまでは自分のことばかり考えて生きてきたが、だんだんと周りの人たち、特に今は妻のことをいつも気にかけながら生活するようになった。そうした姿勢の変化が、この1年で自分が一番変わった部分だろう。それに思い至るにつけ、1日1日の小さな積み重ねは、1年で大きな変化につながるということを強く実感させられる。


夕飯の帰りの車内では、フジファブリックの楽曲「birthday」をスマホで再生しながら、妻の運転する車の助手席で熱唱した。志村の死から7年が経った今でも、自分の心の一番大事な部分で彼の楽曲が輝き続け、自分の道を照らし続けていることは何ら変わりない。これから10年経っても、20年経っても、自分の一番好きな曲はずっとフジファブリックであり続けるだろう。一方で、29才という自分の年齢が、彼がこの世を去った年でもあることを意識すると、彼があの若さで遺した多くの作品の偉大さに頭が下がるとともに、自分も彼に恥じるところのない生き方をしなければと背筋の伸びる思いがする。20代のうちにやっておきたい、まだやり残していると思うことというのは特にないが、来年から30代を迎えるにあたって、もっと成長しないといけない、1日1日に何かを残し、昨日より一歩前に進まなければいけないという気持ちは、ますます強くなるばかりだ。自分の未熟さは、自分が一番よく分かっている。焦っても仕方がないが、時間を目的もなく浪費し、無駄にしてはいけないと説く格言、戒めの数々は、この年になると非常に重くのしかかってくる。「初年老い易く、学成り難し」とはよく言ったものである。


妻や、家族や、地域や、友人や仲間、そして仕事・・・。自分の大切なものを想い、守りながら、どうやって「一角の人間」として社会の中に自分の存在価値を還元することができるか。自問自答しながら、もがきながら、これからの1年の1日1日に、確かな足跡を残していきたいと思う。

(40分)