decade

「真夏のピークが去った」のフレーズで始まるフジファブリックの名曲がラジオから流れるのを聴いてから、はや二週間。その日は盆休みの初日だったが、毎日家事育児に明け暮れ、結局市内からも出ることなく6連休は終わった。そんな最近の出来事さえ遥か過去のことのように感じる目まぐるしい日々ではあるが、時々ふと、もっと昔の記憶が頭をよぎり、しみじみと懐かしい気持ちになることがある。ラジオで聴いた「若者のすべて」がいざなったのは、10年前のちょうど今ごろのある出来事の記憶だった。

 

 

2009年8月下旬、自分はS君と二人で、北海道へ向かうフェリーに乗り込んだ。当時は大学4年生の最後の夏休み。公務員試験の筆記と面接がほぼ終わったものの、お互い就職先の内定がまだなくて、若干自暴自棄気味な状態になっていた。そんな中でちょっと思い切った気分転換をしよう、くらいのノリでぶらっと北海道旅行に出かけたのだった。特にどこをどう巡るというはっきりした計画もなく、レンタカーを借りた札幌からスタートして、ゴール地点の苫小牧まで、概ね海岸線沿いに時計回りで、広大な北の大地をひたすら車で走った。その距離、4日間で約2000km。S君が持っていたツーリングマップルと、自転車旅行経験があった彼の記憶を頼りに、名だたる観光地から隠れた名所まで、1日中走りながら次々と訪れては写真に収めた。ホテルには一切泊まらず、車中泊やネカフェで夜を明かす貧乏旅。自分にとってはそれは、初めての北海道であり、初めてのレンタカー旅行であり、そしてどこに辿り着くかというわくわく感と未知の土地での不安とに満ちた、一つの「冒険」であった。あとにも先にも、自分の中で冒険と呼べるような旅は、これっきりだと思う。あのときの自分だからこそ、S君が一緒だったからこそ体験できたことであり、決して再現性のない一度きりの出来事だったからこそ、その記憶は自分の中で強い輝きを放ち続けているのである。あのとき、車の中で流れていたのが、CDに焼いて持ち込んだフジファブリックの音楽だった。そして、若者のすべては、確か知床半島羅臼の辺りを走っていたときに流れていた。フジファブリックはそれくらいに、当時の自分の記憶と強く結びついていて、タイムマシンのように記憶を蘇らせる力を今でも持っている。あの旅行で自分の世界観は大きな影響を受け、それ以降様々な土地に毎年旅行に行くようになった。視野を拡げるきっかけをくれたS君には、今でもとても感謝している。

 

 

あれから10年の歳月が流れた。自分も彼も大きく変わった。卒業後も毎年一緒にスキー場に行ったりして交流は続けてきたが、お互い家庭を持って(彼も結婚し、去年お子さんが生まれた)、なかなか会えない身分になった。最後に会ってからもう3年近くが経つ。でもそれもまた人生のサガというものだ。いずれまた会うときは来るし、そのときは特に大げさな挨拶もなく、これまで通りのそっけないやりとりを再開できるだろう。そんな日を期待するともなく待つことにして、10年前の記憶を再び引き出しの中に仕舞うとしよう。


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(60分)