投資

資産の保有・運用における基本原則は、「分散投資」と「長期投資」であると自分は考えている。以下、自分の投資姿勢について述べてみたい。


まず、分散投資についてである。ここでいう分散には2つの意味がある。一つは、「方法の分散」である。これは、資産を何か一つの形のみに集約して保有するのではなく、株式、現預金、債券、金(ゴールド)、不動産といった複数の形態に分けて持つようにすることである。これによって、ハイパーインフレや、株式市場の暴落といった不測の事態によって全資産が失われるリスクを回避することが出来る。しかし、これではまだ資産の安全を担保する上で不十分である。なぜなら、保有形態を分散しても、それが物理的な存在である限り、破壊ないし喪失するリスクを消し去れないからだ。そこでもう一つ重要になってくるのが、「場所の分散」である。これは、文字通り、資産を複数の場所に分けて保管しておくことである。例えば、全資産を1つの金庫の中に全て納める、といったことは物理的なリスクが非常に高い。誰かに預けておくのは不安だから、資産は常に自分のそばに置いておきたい、と考える人も世の中にはいる。だが、どんなに頑丈で高度なセキュリティロックを備えた金庫だとしても、大津波のような天変地異や、盗難による喪失の可能性をゼロにすることは不可能である。また物理的に自分で全て管理することは、何らかの事故の際の責任も全て自分に降りかかってくることになるため、万一への備えとしては適切とは言えない。そこで、海外を含む複数の場所(自分の場合は国内のみ)に分けて、複数の資産形態で保有することによって、社会・経済の変動や自然現象に起因する様々なリスクを分散することが必要だと考えているのである。


分散投資について、自分の実際の投資に当てはめて考えてみたい。自分の保有資産のポートフォリオ(投資した金融商品等の組み合わせ)は下の円グラフのとおりである。

これは熟慮や計算の下に意図的に実現した結果ではなく、成り行き上こうなったというだけのものなので、最適比率という訳ではない。半分を普通預金が、4分の1を金プラチナ積立が占めているのが特徴的な点だ。通常、金やプラチナといった実物資産の理想的な保有比率は1割と言われているが、自分はハイパーインフレへの備えとして、意識的に保有量を積み増してきた。またお金が必要になった時にすぐに現金で引き出せる流動性の高さを重視する観点から、普通預金の比率も高くなっている。方法の分散としては、金プラチナ、預貯金、株式の3つが代表的な投資先となっている。それぞれ、田中貴金属工業、ゆうちょ銀行、ジャパンネット銀行、地元の信用金庫、楽天証券(より厳密には証券保管振替機構)と別々の機関に分散して存在しており、自宅にある金融資産は財布の中のごくわずかな現金くらいなものである。従って、万一自宅が風水害で被災して損壊したり、盗難にあったりしても、少なくとも自分の資産が大きく損なわれる恐れはない。ただし、お金に換算出来ない大事なものを失うことによる精神的損害のほうが実際には大きな負担となるだろう。


さて、次に長期投資についてである。これは、極めてシンプルな原則である。「短期的な相場の変動は一切気にせず、一定のペースで買い続け、長い目で見て投資をする」というものだ。長い目で見て、というのは、一番短い尺度で1カ月、最も長い尺度では自分のライフスパン(人生の長さ)のことを差す。例えば、株式は買ったら最低2、3カ月は放っておくようにしているし、金プラチナは毎月定額で買い続けているが、始めて以来一切売却していない。どちらも短期的な売買差益を狙ってやっているものではなく、十何年後、何十年後かの利益を見込んで、漬物のごとく「寝かしている」ものだからだ。短期的な売買は、大きな利益が出ることもあるし、一見して「積極的な投資」の姿であるようにも思えるが、それは「投機家」であって投資家とは言えないと思う。市場というのは必ず変動するものであり、その値動きには長短の波がある。短期的な波の動きを読んで売買を行うことは、昼間に会社勤めをしている一般人にはほとんど無理だ。そのため、「個人投機家」の中には、大儲けと大損の繰り返しになりトータルで利益を出せない人が多く存在する。その最たる例は、FXである。目まぐるしく動く為替相場に一喜一憂し、仕事中も相場が気になってついスマホでチェックしてしまうという人もいるという。そうなってしまってはほとんどギャンブルと変わらないし、やっている本人たちは一種の中毒だと言わざるを得ない。自分は2011年10〜12月にどんなものか知るためにやったことがあるが、その中毒性を実感しただけで、利益は出なかった。それ以来、FXだけはやらないと決めている。あんなのをやると罰が当たるとさえ思っている。そもそも、FXは一体どこから利益が生じているのだろう。株式取引の利益は、投資した企業の成長による時価評価額の上昇、配当の増配といった形で生じると理解出来る。だが、FXは取引の中で価値を生み出したりするものではない。結局あれは、誰かの損が他の誰かの儲けとして分配される「ゼロサムゲーム」でしかないのだ。そのため、資金力と情報力において圧倒的に優位に立つ投資ファンドや金融機関が莫大な儲けを得て、多くの哀れな素人投機家はなけなしのお金を失うという憂き目にあっている。言ってみれば、ボクシングの世界チャンピオンとアマチュアボクサーが同じリングの上で勝負しているようなものである。アマチュアがボコボコにされるのはどう考えても明らかだ。情報通信が発達した今日、金融市場においては、世界中の人が同じ土俵に立っているのである。素人が儲け狙いの甘い考えで短期の売買に手を出すと、痛い目に遭うのは避けられない。


個人が短期的な売買で継続して利益を出すのは難しく、特にサラリーマンがそれをしようとするのは合理的ではない。だからこそ、長期投資が有効なのだ。株式では、短期の波は不規則に動くが、長期の波(トレンド)としては、少しずつ確実に上がっていくことが多い。目先の動きに惑わされず、自分が成長すると信じた企業の株式を長期間保有し続ければ、利益を得るのは難しくないのである。早く利益を確定したいという誘惑に駆られて、値上がりした株式をすぐに売却してしまうと、長期で見て得られたはずの更なる値上がりによる利益を失うことになりかねない。自分自身、昨年にそういう体験をした。12年9月に92円で取得したマツダ株を12年12月に128円で売却したものの、その後株価は上がり続けた。今日の終値では346円になっているから、売らずに保有し続けていれば時価評価額は4倍近くになっていたのだ。焦って売却したことによって手に入れられたはずの利益を逸してしまったのである。この事例は自分にとって大きな教訓となった。それ以来、安定株主として企業の成長を見守る姿勢で長期投資を行うことを心がけるようになった。また、長期投資には、一時的な市場の変動によるリスクをヘッジするというメリットもある。例えば、4月16日に金価格(田中貴金属終値)が一日で5026円から4408円に約600円も急落するという出来事があった。これは短期的に見れば非常に大きな変動だったが、10日後の現在では4974円と以前の水準にまで戻っている。急落時に更に下がると考えて売ったりしていたら、大損をくらっていたところだが、放っておいたおかげで損失は被らずに済んだ。そもそも、金プラチナ積立は、1か月分の資金を使って毎日少しずつ購入することで相場変動の影響を軽減する「ドル・コスト平均法」という方法によって管理されているので、短期の変動はほとんど気にする必要がない。むしろ老後の個人年金用に積み立てていることを考えると、値下がりのほうが将来の積立量を増やせるのでありがたい。市場の目先の動きは目まぐるしいが、それに動じないでいることが結果的には資産の安定の実現に寄与するのである。なお、長期投資は、「時間の分散」と表現することも出来る。従って、広い意味で分散投資の概念の中に含めてもいいだろう。


長くなったが、以上が自分の投資のスタンスである。説明は回りくどいが、基本原則は極めてシンプルだし、そんなに難しく考えて、数理的、理論的にやっているわけではない。結局は、何かの急変によって無一文にならないための防衛策に過ぎないからだ。ただそれにしても、今の状況は少々貯め込み過ぎではないかと思う。上の円グラフに含めた資産は、就職してから3年間の給与の手取り額のほぼ3分の1にあたる。お金は天下の回りものだ。使ってこそ意味がある。使うあてもない預貯金は、金融機関の国債購入に充てられてしまうだけで、あまりすべきではない。国内旅行に出かけて、パーっと使うこともたまには必要だろう。何より20代の今は、お金の運用に知恵を絞るより、将来に向けた勉強や人との交流といった「自分への投資」に努力を振り向けるべき時期である。自分への投資は、将来大きなリターンを生む。お金の生きた使い方については、まだまだ考える余地が大きいというほかない。お金を貯めるための工夫よりも、将来の種をまくためにいかにして戦略的に使うかということに知恵を絞り、それを着実に実践していきたい。

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