ジレンマ

これは、うちの大学に限った話ではないだろう。大学院の入試というのは、今、重大なジレンマを抱えている。定員割れしているから、何とかして入学者数を増やしたい。でも誰かれ構わず合格させてとんでもない人を受け入れてしまうと、指導において教員に多大な負担をかけてしまうし、その挙句教職に就けなければ、大学の評価にマイナスとなってしまう。受験生がみな優秀な人であれば問題はないが、現実には玉石混交で「ちょっとこれは・・・」という人も少なくないという。定員に満たない以上は、残念ながら、そういう人もある程度は受け入れなくてはならない。現状ではうちの大学の院試は選抜試験としては機能していないのが現実だ。受験生を合格させるかどうかというのは、非常にナーバスでシビアな決断が求められるのである。大学にとって学生・院生というのは、収入をもたらしてくれる「お客さん」であると同時に、責任を持って社会に送り出さなければならない「商品」でもある。両者を天秤にかけて、きちんとバランスを保たなければ大学は成り立たない。今は、商品としての部分が軽くなりつつあるということなので、対策としては定員を減らすか受験者数を増やすかということになる。しかしどちらも難しい。どうしたらいいのだろう。


また教員自身も大変なことになっている。教育と研究における様々な困難に加えて、多くの雑務もこなさなければならず、頑張っている人ほど過重な負担を強いられているのである。事務職員は短期的にはその負担の一部を肩代わりし、中長期的には負担の少ないシステムを構築するために努めなければならないのだが、そうした方向性においてはまだ明確な道筋は見えていない。事務は事務で多くの業務を抱えているから、教員を補助することに専念することは出来ない。お金の使用に対するチェックが厳しくなる中で、書類手続きは簡略化されるどころかむしろ増加と煩雑化の道を進みつつあり、教員には困惑といら立ちが募っている。これ以上負担が増えては、いずれ教員が倒れてしまうだろう。そうなっては、大学の運営は立ち行かなくなる。


多くの面で、大学は存亡の危機にさらされている。じっと自分の椅子に座っていれば、そうしたことは分からずに、平穏さを錯覚していられるが、色んな人の話に耳を傾けると、そうした現状がはっきりと浮かび上がってくる。どうしたらこれらを解決できるのだろう、自分に一体何が出来るのだろう・・・。大学院入試で出勤していた今日は、そんなことを強く考えさせられたのだった。

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