月の繭

今週、3カ月かけてDVDを視聴していたターンエーガンダムを見終えた。魔法陣グルグルのED曲「Wind Climbing 〜風にあそばれて〜」などで知られる奥井亜紀が歌う後期ED曲「月の繭」の幻想的な響きがいつまでたっても頭から離れない。本作は、従来のシリーズのお約束だった主要キャラクターが終盤で次々に死ぬような無慈悲でシリアスな展開がなく、月と地球の戦争を描きながらも基本的には牧歌的で平和的な物語が繰り広げられる。物語の舞台が宇宙に移るのも終盤になってからで、ストーリー全体のうち始めから3分の2は宇宙空間の描写がなく、完全に地球上だけが舞台になっているのも非常に特徴的である。「ヒゲガンダム」と称される主役機のデザインも含め、「ガンダムらしくない」という表現がしっくりくる異色作だ。だが、それが従来のガンダムシリーズに慣れた自分にとってはすごく斬新であったし、かつ心惹かれる点でもあった。主人公ロランを凌ぐ存在感を放つ、ディアナとキエルという2人のヒロインが実に魅力的だったし、登場キャラクターはみな個性的で芯のある人物ばかりで、50話もの長いストーリーながら途中で飽きることがなかった。全話を見終えた今、途中で徐々に芽生えていた「このガンダムが一番好きだ」という思いは、揺らぎないものになった。「黒歴史」として歴代作品の時代と世界を全て内包し、長い歴史の末に最後にたどり着くのがターンエーで描かれる世界という驚愕の設定には、面喰ったものだが、最後まで見るとそれにも納得出来る。まさに、冨野ガンダムの集大成といっていいだろう。本作のことがあまりに好きになってしまったので、もはや他のガンダムを見る意欲が沸かなくなってしまった(ファーストは別格だが)。テレビ放映されて録画したまま未視聴のエイジは、もう見ることはないかもしれないし、それでいいのかもしれない。


(30分)