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学生時代には誰でも必ずやったことだと思う。講義室の机に鉛筆(シャーペン)でラクガキをするという行為は。それ自体は別に悪いことじゃない。机を傷つけるものでなければ、たとえラクガキにうつつを抜かして講義をおろそかにしたとしても、基本的に自己責任だ。ただ、これだけは徹底してほしい。「書いた後は、必ず自分自身でそれを消す」ということだけは。でないと、自分たち、事務職員がそれを消す羽目になるから。


自分たちの部署の中は毎週水曜の朝、始業前に掃除するが、講義室の掃除は、外部の業者に委託しているから、事務は基本的に関わらない。だが、教員免許の更新講習とかで、教室が外部の人向けに使われる時だとかは、事前に教室が汚れていないか確認しにいくことがあり、汚れている場合は事務が掃除することになる。床の掃除はほうきを使って掃けばいいだけなのですぐに終わるが、問題は机に落書きがある時だ。これはなかなか厄介で、広い講義室の机全てを消しゴムで消そうとしたら相当骨が折れる作業だし、せっかく消しても一週間後に見てみると元に戻ってしまっているので、労力に見合わない。そこで効果的に、効率的にラクガキを消すために、ある秘密兵器が用いられている。それは何かと言うと・・・なんてことはない、ごく普通の「スポンジ」を使うだ。これに水を含ませてラクガキを擦ると、あら不思議、ラクガキがみるみる消えてゆくのである。これを使うことの利点は、①消しゴムと違って擦るときの抵抗が少なくて疲れにくく、②擦っても消しゴムのように消しカスが出ず、③本体が簡単には摩耗しない、ということである。欠点としては、①擦るうちに水が抜けていくため、水をこまめに吸い込ませる必要があり、②消しゴムの汚れを浮かせた後は雑巾でふき取る必要がある、というのが挙げられるが、それにしても利点のほうがはるかに勝っている。誰が考え出したのか知らないが、これを最初にやった人は本当にすごいなぁ、えらいなあ、とつくづく思わされる。と同時に、もしスポンジで消すという方法を知らなかったら、どれだけの労力が無駄に費やされることになるのだろうかと考えると、空恐ろしくなってくる。これがもしうちの大学以外では普及していないノウハウだとしたら、ぜひ他大学でも実践してみて欲しいと思う。逆に他大学ではもっと効率的な方法、画期的な方法が使われているのだとしたら、ぜひとも知りたい。ご存知の方がいましたら、よろしくお願いします。


さてスポンジがラクガキ消しの救世主だということを書いたが、そもそもラクガキなんてものがなければ、わざわざ学生との不毛なイタチごっこを繰り返す必要はないのであって、冒頭に書いた一文が自分の本心からの願いであり、理想である。学生にとっては、よもやラキガキを事務が消していようとは微塵も思っていないだろうし、書いたラクガキがいつの間にか消えていることに何の疑問も感じていないかもしれないが、もし自分たちが払っている授業料が自分のかいたしょーもないラクガキを消すのに使われているというふうにとらえれば、決して野放図にラクガキを続ける気にはならないのではないだろうか。世の中の物事というのは全て、何かしらの形で自分とつながっていて、主にそれはお金のやり取りという形態で自分の利害に関わっているものだ。お金という観点から世の中の動きを俯瞰する、長期的かつ広範な視野をもって自分の利害を深く考えてみるという経済学的な考え方を、教員を目指しているうち学生にも持って欲しいものだな、なんて思わないでもない。まあ経済学部卒の自分でも果たしてそれをしっかり持てているのかといえば微妙なところなので、経済学を勉強しなおさなきゃなぁと考えさせられずにはいられなかったりもする。いずれにせよ、知識であれ、ものの見方・考え方であれ、身につけるなら頭が柔らかく十分な時間もある学生のうちがもっとも適しているのは言うまでもないことだし、大学時代はそのための最後のチャンスだ。一旦社会に出て組織という狭い領域の中で平平凡凡と日々を過ごしていると、どんどん常識に思考と行動が阻まれて、頭が凝り固まっていってしまう。考えるということすら、だんだんおろそかになっていってしまう。学生たちには、座学の勉強は単位を落とさない程度のものでもいいから、頭を柔らかく保つために色んなものに触れようとする努力だけは惜しまずやってほしいものだ。

(65分)


<追記>
ちなみに、自分は学生時代は机にラクガキすることはほとんどなかった。
ラクガキはよくしていたが、主に教科書やノート、プリント類にかきこんでいた。
そのほうが消しやすくて、隠しやすいし、自由に好き放題かけたからだと思う。
また紙にかいていたおかげで、当時のラクガキがそのまま今に残り、いつでも見ることが出来るというおまけもついてきた。
絵はほとんどなく、文字中心なのが特徴だ。
バカなことを考えていたなぁ、なんて思えたりしてなかなか面白いものである。
ということで、学生のみなさん、ラクガキするならぜひ「紙」にしてくださいね。