イカレタオトコ

自分は、ああ、なんとチキンであることか。


バイト応募の電話をするのに、1時間もためらい続けてしまったのだった。


かけようかどうしようかと決心のつかないまま、大学内をさまよい歩く自分。書籍部、図書館、教養棟と浮かない表情でうろつく姿は、さぞ挙動不審であったに違いない。


就職の面接は受けられるのに、どうしてバイト応募の電話が出来ないのか、おかしいだろ!と自分をせき立ててみるも、押せない。通話ボタンが、押せないのだ。電話は苦手なのである。友人相手でさえかけれないことがあるほどだ。


バイト応募の電話をするのは何も初めてではない。さすがに自分も何回かしたことはある。しかしそのいずれもが、今日と同じ調子だった。なかなかどうして、いつまでたっても決心がつかないのである。その原因はおそらく、お金を得る必要性に強く迫られていないことにある。


別に生活費は十分親からもらっているし、テレビも貯金を切り崩して買えたから、お金を今稼がねばならない理由はない。だから「バイトしてみたいから」というだけではどうしても動機として弱く、電話片手に迷う羽目になってしまった。必要に強く迫られないと、土壇場にならないと動けない性分。これが自分の最たる特徴であり、決定的な弱点でもある。これはなんとしても直さねばならない。


そう思って、ようやく「えいやっ」と電話をかけたはよかったが、今は夜勤しか募集していないといわれた上、今は忙しいので来週以降また連絡するといって切られてしまった。うじうじしているからこういうことになるのだ。散々迷っていた自分が情けなくなった。


確固たる理由がなくたって、やりたければやればいいのだ。「やらない後悔よりやる後悔」である。及び腰もいい加減にしろ!今の状態じゃ、チキンを通り越してイカレてるくらいのレベルだぞ!全く…。

(30分)