読書:クラインの壺

著者:岡嶋二人
文庫: 412ページ
出版社: 新潮社
発売日: 1993/01(単行本は1989/10)




2年前に、唐突に昔見たテレビドラマを思い出して、どうにか探し出したタイトルを元に、勢いで買ったドラマの原作本。


思い出したのは、小学校低学年のときにNHK教育で見た、「ヴァーチャルリアリティを現実そっくりに体験出来るゲームをしていた主人公が、次第に現実と虚構の境界を見失っていく」という内容の話。ゲーム批判家が喜んで飛びつきそうな話だ。


あれ、何てドラマだったかな?と思って、タイトルも出演者も分からずに、「NHK教育のドラマ」ということだけを頼りにネットを漁って、判明したのが「クラインの壺」という作品だった。堂本光一が主演してた気がしたんだけど、勘違いで主演は国分博という人だった。


Wikipediaによると、放映は1996年3月。小学2年生のときである。タイトルなど覚えていなくて当然だ。だが、筋書きと断片的な映像、ラストシーンは覚えていた。


それを思い出しながら、昨日今日とドラマの原作本であるこの小説を読んでみたのだった。


結果は、当たり。400ページというボリュームを感じさせない面白さだった。設定上最初から結末は予想が付いたし、ストーリーは断片的な記憶をなぞるものだったが、それでも読むのが遅い自分をして、一気に読ませてしまった作者の巧みで軽快な文章には思わず唸らされた。


全身をすっぽり覆って触覚や痛覚まで再現してしまう装置が登場することからして当然SFなのだが、ミステリでもあり、サスペンスでもある、ジャンルに縛られず読み手を選ばない作品だと感じた。


89年の作品だから、ポケベルが登場したり、標準的なパソコンの記憶容量が1MBと説明されていたりするなど時代を感じる場面もあるが、当時の様子を想像するのもまた面白いというものだ。


著者の岡嶋二人は合名の作家で、この作品を最後に今はコンビを解消してしまっているらしいが、それ以前の作品にも興味がわいてきた。


そのうち読んでみたいと思う。

(30分)