開示範囲

今夜は、職場の若手有志の「食事会」があり、自分を含む男5名が集まった。会場はそば屋で、みな車で来ているのでアルコールは飲まなかった(飲み会だとかえって人が集まりにくい)。そばと天ぷらに舌鼓を打ちつつ、色々と話をした。若手で集まるのは3月以来のことで、最初はあまり会話が弾まなかったが、次第に盛り上がってきて、21時に店が閉まった後も、しばらく店の前で立ち話をしていた。明日も休みなので、近所にマックでもあれば、そこに移ってもう少し話を続けてもよかったのだが、適当な店もないのでそこでお開きとなった。こういうとき、田舎は不便だなとちょっとだけ思ってしまう。


集まりの中で交わされた会話の9割は、仕事・職場のことだった。部署異動してから自分の課以外の職員と話す機会がめっきり少なくなったので、久々に人と集まって話せるのは楽しく、自分も積極的に会話に加わったのだが、そこで常に頭をよぎっていたのが「どこまで話していいものだろうか」という問題だった。給与担当は、教職員全員の給与額を知れる立場にあるのみならず、経歴や勤務成績などの人事上の情報や、扶養家族の有無や生年月日などの個人情報も多く扱っている。最初のころは、それらの情報が否応なく目に飛び込んでくることに驚き、目眩すら感じたものだったが、それが毎日続くことで次第に何も感じずに淡々と事務作業が出来るようになっていった。しかし、業務上ではごく日常的に触れているそうした情報も、業務外、担当外の場においては、人に話してはいけない「個人情報」に他ならない。自分の仕事はいわば個人情報の塊のようなものであり、仕事のことを話そうとすると、どうしても話す内容に一定の制限を設けなければならないのである。そのため、話していいかどうかの線引きについて常に意識し、慎重に言葉を選びながら話さねばならず、会話するのに難しい作業を伴うことになった。


給与の仕事は信用商売なので、万が一にも口を滑らせるようなことがあってはならない。だが、会議もなければ、他部署に足を運ぶこともないような環境にずっといると、大学の動きから取り残されて化石化してしまうので、機会があれば出来るだけ他の職員とも話をして情報交換したい。そんなジレンマが表面化し、特殊で難しい立場にいることをつくづく思い知らされつつ、家に帰ったのだった。

(80分)