BAR

今日は、今年最後の業務日、いわゆる「御用納め」の日だった。うちは官公庁じゃないから、この用法は妥当ではないのかもしれないが、退勤のことを退庁と言うなど、依然として旧弊が残っている部分は多々あるので、皮肉めいた使い方をするのであればあながち間違っているとも言えないだろう。学長が今年の総括の談話を述べる「仕事納めの会」はすでに先週金曜に済ませているので、今日は特別な行事というのはなかったし、意外にも年休を取って休んでいる人はあまりいなかった。仕事もいつも通りだったし、違うところを挙げるとすれば、夕方以降、退勤する職員から口々に「今年はお世話になりました。よいお年を」という言葉を受けたことくらいだろう。年末らしくない淡々とした様子に「ふーん、こんな感じなのか」なんて思いつつ、自分も同じような言葉をかけ、終業後早々に職場を後にした。


その足で向かったのは、駅前の居酒屋だった。同期一人と、先輩二人が一緒だった。先輩の発案で、昨夕に急遽「若手忘年会」が企画され、集まったのがこの面々だった。全員20代の男である。仕事の話が中心だったが、有意義な情報交換をしつつ和気藹藹と盛り上がって、いい雰囲気のまま2時間半ほどでこの場はお開きとなった。当然、次の店に行くものと思っていたら、同期が帰ると言ったことから先輩の一人も帰ることになり(二人は宿舎なので、帰るには一緒にタクシーを使うのが安上がりなのである)、自分と、発案者で同じ部署の先輩であるNさんが残った。そして二人で近くのバーに行くことになった。Nさんと二人で飲むのは初めてのことだ。バーなんていうから、落ち着いた雰囲気のちょっと高級な場所かと思ったのだが、入った店は普通の居酒屋と同じくガヤガヤした喧騒に包まれていて、内装もカウンターに日本酒の瓶のかわりに洋酒の瓶が並んでいるくらいの違いしかなかった。自分の中でのバーの定義があいまいになってしまったが、まあ田舎だからこんなもんだろうと納得もしたのだった。カクテルだけではなく、ビールや日本酒もそろえていたけど、やっぱりバーならカクテルということで、適当に2、3杯飲んだ。ここではNさんと2時間ほど話をした。普段から雑談をしているから、ここで殊更話すこともないんじゃないか、話が途切れるんじゃないかと危惧していたが、それは杞憂だった。自分が今の仕事への思い入れや、大学の現状に対する不満と危機感、改革の必要性と今後の展望などについて、思いのたけをとにかくしゃべりまくったし、Nさんもそれに真剣に耳を傾け、頷くとともに、自らの経験について色々と話を聴かせてくれたのである。場が持たないどころか、むしろ時間がいくらあっても足りないくらいであった。家族に迎えに来てもらう都合上やむなく先に帰ったが、楽しかったので、もっと留まっていたかったのが正直な気持ちだった。お互い腹を割って話をし、親睦を深められて本当によかったし、思っていたことを粗方言えて自分はとても満足していた。バーの代金をほとんどおごってもらったのが申し訳なかったが、出来れば来年はこうした機会をもっと頻繁に持ちたいと思った。向こうも同じことを言っていたような気がする。同じ部署で毎日顔を合わせているし、同期よりも年が近いこともあって、Nさんとはとても話がしやすい。今回は自分ばかりしゃべってしまったが、次の機会には、今度はNさんの仕事のやり方などを聴いてみたいと思う。そんなわけで、今年最後の業務日は、満足感に彩られながら終わったのだった。


それにしても、自分は、酒が入るとどうも饒舌になるようだ。普段の職場では、失言を警戒して必要以上のことは言わないようにしているから、飲み会でそのタガが外れ勢いがつくと、平生とは違った印象を持たれてしまうらしい。自分では全くそうは思わないのだが、ある人によると「強気」という印象を受けるそうだ。酒席でだけのこととして片づけられればいいが、うっかり変なことを言って禍根を残すことになれば、せっかく慎重に積み上げた穏便な関係がぎくしゃくしかねない。課の飲み会などでは、あまり飲みすぎず、いつも通り「雄弁は銀、沈黙は金」を信条に、終始落ち着いてやり過ごすくらいの態度も必要かもしれない。

(90分)