読書:崩壊する世界 繁栄する日本


著者:三橋貴明
出版社:扶桑社
発売日:2009/3/14
購入日:2010/4/5
読了日:2010/5/8



久々に本を一冊読みきって、色々考えたこと、感じたことがあったので、久々に読書の記事を書いてみることにした。現行では基本的に、読書メーターのほうに感想を残すことにしているので、今回のようなのは例外的なケースということになる。


今回読んだのは、『崩壊する世界 繁栄する日本』という本。タイトル的に、「崩壊するのは日本のほうでは?」と思いながらも以前から割と気になっていたので、Amazonでの評価が高いことから購入に踏み切ったのだった。


結論から言うと、非常で論理的に説得力がある、至極真っ当な内容で、著者の主張に大いに納得させられた。論壇ではなく2chで論戦を張って鍛えたと著者紹介の部分に書かれていたのを最初に読んだときには、「なんじゃそりゃ」と思って笑ってしまったのだが、読んでみると「だからこそ反論の余地を残さない骨のある主張が展開出来たのか」と反省させられてしまった。本書の基本的なスタンスは、代表的ないくつかの国の国家モデル(金融立国、貿易立国など)が実は如何に脆弱で危ういものであるか、そしてそれらの国と比べどれほど日本が健全で磐石な経済基盤と成長への潜在力とを持っているかということを、各種のマクロ経済指標から徹底的に分析するというもの。日本のマスコミがもてはやす国々をバッサバッサと切り捨てる様は、痛快ともいうべきものだった。ただ、この本が出てから1年がすでに経過していることから、実際今、それらの国はどうなっているんだろう、という点で疑問が払拭されなかった。危機から回復しているかもしれないし、もっと深刻化しているかもしれない。まあそこらへんは自分で新聞を読んで読み解くしかないだろう。


1つの文章にまとめるのは難しいので、以下では、感想を雑多に列記することとする。


○元々自分は、「物質的裏づけを元に生じるはずのお金の価値が、有体の商品やサービスから乖離し、信用や期待によって金融市場で自己増殖するのはおかしい」と思って、金融・証券が幅を利かせる状況に疑いの目を向けていたので、昨今の金融危機で痛い目にあった人たちにはある種「ざまーみろ」とさえ思っていた。なので、金融立国を掲げたアイスランドとイギリスの没落が解説されていたところが一番納得いった。


○著者は日本のマスコミの言説を的外れだと非難している。確かにそうだ。とかくマスコミは経済と科学については知識不足である。原子力船むつの事故の時は放射線放射能の区別がついておらず混乱を拡大させた。「日本の借金はGDPを上回っており、国民が1年間飲まず食わずで収入を返済に充てても返せないほど巨額」などという表現をたまに目にするが、GDPはストックではなくフローである。誰かが使ったお金が別の人の収入となり再び使われることによって累計で500兆円ものお金が流通するのだから、政府・企業含め1年間誰も何も買わなかったらGDPは0円であり借金は1円も返せない。


○日本国債の95%は日本国民が買っているから、いざとなったら日銀が紙幣を発行して返済すればいいのであり、対外的に債務不履行となって破綻することはありえない、というのが著者の主張。大学でもゼミの教官が同じことを言っていた。ハイパーインフレが起きるかもしれないが、インフレになればかえって実質的な借金は目減りすることになる。日本の対外純債権は250兆円。対外的には世界一の債権国であり、日本の資金が世界に流れ各国の経済を支えている。円建て国債は円を刷って返せばいいだけ。だからといって国債の増発を際限なく認めれば、国民が政府に頼るようになり日本はダメになる。日本破綻論はナンセンスだが、それでもやはり財政規律は重要だ。国民が政府に貸付をしているのだから、国民は債務者でなく債権者である。政府はこの事実をもっと国民に説明し納得してもらう必要があるはずだ。


○日本は輸出で成り立っているというが、07年の貿易黒字の対GDP比率はわずか2.5%。輸出が傾くと即日本が傾くというわけではない。円安こそが日本の利益につながるという論調に著者は反対し、むしろ円高こそが望ましいという。なぜなら国家の経済力とは、「付加価値を稼ぐ成長手法」と「輸入力」にあるからだというのだ。円高になれば海外の商品が安く買えるようになる。そうすれば、国内で需要が喚起され、消費が増えてGDPは押し上げられるというのである。消費が増えれば環境負荷も増すから、それはどうかと思ったが、お金を払えば労働なしに外国からモノを買え幸福を享受できるというのは、逆に言えば日本が必死で円安を保って作ったモノを輸出しようとするのは相手国に楽をさせるための奉仕なのだろうかとも思った。攻殻の登場人物が「奴隷の国が奉仕を怠れば、消費の国が飢えるのは必然」と言っていたのを思い出し、ちょっと複雑な心境になった。サムスンやLGが世界で製品を売りまくっている韓国だって、07年の純輸出はGDPの1%にも満たない。つまり純粋な儲けはごくわずかでしかない。韓国の出生率は世界最低水準で、労働者の半分は非正規雇用、受験戦争が超絶的な激しさで、やっと大企業に入れてもずっと社内競争に晒され続け、国家的に行っているはずの輸出は結局GDPを押し上げないとなれば、果たして「韓国を見習え」というのが正しいのだろうか・・・。そう考えずにはいられない。円高というのは、それだけ円の価値、日本の経済力が認められているということで、本来は誇ってしかるべきことだ。マスコミの否定的な論調にばかり振り回されず、もっと自分たちに自信を持ってみるべきだろう。


国益中心主義、というと「全体主義」「軍国主義」を想起しがちだが、日本以外の国は全て他国を出し抜いてでも自国の国益を守ろうと必死になっている。日本人も少しは彼らの「したたかさ」を見習ったほうがいい。EU加盟国だって、軍隊までは統合していない。ということは、いざとなれば、自国のことを最優先に考えて行動するはずだし、軍隊はそういう目的で存在している。軍事力は決して行使してはならないものだが、持っていることには国益という面から必要性がある。


○著者の主張にはおおむね賛成だが、インフラ整備のコストを削減するために地方の人間を都市に移し、都市に集中投資すべきという部分には反対だ。国内の文化や風土の多様性が失われるし、安全保障上もあまり一箇所に人が集まるのは相応しくない。そこに核ミサイルを打ち込まれたら一瞬でおしまいだ。地震津波、台風、土砂災害と多くの災害の危険に晒されている「災害大国」である日本では、たとえ効率が悪くとも人を分散させておいたほうが国民の安全は高まる。また最終章で「最も強いもの、最も賢いものではなく、変化に最も敏感に適応できたものこそが生き残る」という「ダーウィンの言葉」が引用されているが、これがダーウィンの発した言葉であることには近年疑問が呈されている(cf.→http://set333.net/gaido03syunokigenn.html)のでこの点も少し残念だった。


・・・などなど。まあとにかく色々考えさせられる内容だった。自分は、本(小説・文学除く)を読むという行為に、知識を得ることではなく、考え方や視点に出会うことを求めている。その意味において、本書は非常に示唆に富んでいてよかったし、面白かった。今後もこうした本を読んで行きたいと思うが、書評や感想で時間を食うよりは新たな本を読んだほうが有意義なので、読書のエントリは今日で最後にしようと思う。

(145分)