U-29

世の中の社会人のうち、どれくらいの割合が同じ状況なのか分からないが、自分の平日の自由時間はほとんどゼロだ。最近2週間の傾向としては、睡眠時間が5〜6時間、朝の起床(6時)から家を出る(7時)までの時間が1時間程度、帰宅(22時半)してから寝る(0時)までが1時間半程度といった感じ。家で過ごす時間は約8時間半で、残りは通勤と仕事に費やされる。そのため、食事や入浴、身支度、新聞を読む等の必要不可欠な行動をするのが精いっぱいで、ストレス発散になるようなことをする余地はない。いや、器用な人なら、この限られた時間の中で娯楽等のための時間を捻出できるのだろうが、自分には今のところ出来ていない。こんな中で状況の不条理さを考え込むと心が荒んでしまうので、心のセンサーの感度を意図的に下げて、細かいことには鈍感な態度を取るようにしている。そうしないと、この生活をあと3、4ヶ月も続けることは出来ないだろう。仕事の担当範囲があいまいで、しかも仕事を自らの裁量でコントロールすることができず、それでいて結果に対する責任は重いという、組織の内部調整業務の一番悪いところを凝縮したような環境に自分は身を置いている。例えて言えば、灰汁をすくい取って集めたような、体によくなさそうなマズい汁を毎日すすっているというような感じだ。実家暮らしで、炊事洗濯を家族に頼っているからこそまだまともな生活を保てているが、一人暮らしだったら完全にどこか崩壊してしまっていてもおかしくない。自分で自分の面倒をみるのがやっとなので、家庭を持つことなんて今の状況からは考えられないし、22世紀の世界のように自分とは縁遠いものに思える。子どものいる同い年の同僚のことを、自分はとても尊敬しているし、家族を大事にする態度を見習わなければといつも思っている。


そんな余裕のないあっぷあっぷな日々ではあるが、週に何回かは、家に帰って遅い夕飯を食べながら録画したテレビ番組を30分ほど視聴することがあり、それが数少ない楽しみの1つとなっている。自分が毎週欠かさず見ているのは、「人生デザインU-29」というNHK Eテレの番組だ。Wikipediaによれば、「「U-29世代(29歳以下)」の悩みや不安に加え、新たなチャレンジを通して、“社会に出るとは○○○ なんだ”を描く“生きかた番組”で、内容は主人公の仕事や暮らしの様子をドキュメントして、働く醍醐味や、収入と支出、さらには、オンとオフの過ごし方を伝える。」という内容である。毎週一人ずつ、全国各地の、様々な職業の若者が奮闘し、番組の中で少しだけ成長する姿が描かれる。それを見るたびに、自分と同じ世代の若者が、あんなふうに活躍しているなんてすごい、とポジティブな刺激を受け、自分もがんばらなくちゃと気を引き締めている。自分とは違う職業の人たちの働く姿、生き様を見るということは、その数だけ自分の知らない世界のことを垣間見ることが出来るということだ。番組を見ることによって、自分の知らないところで、こんな仕事をしている人がいるのか、世の中は誰かがこういうことをしてくれているおかげて回っているんだなと、普段の生活では意識することすらない世界のことを知ることが出来るのだ。だから、番組を見ることは本当に毎回目からうろこの新鮮な体験だし、毎週の放送をいつも楽しみにしている。世界は広い。自分の知らないところで、世界は大きく広がり、ダイナミックに動いている。その動きに、目を閉ざしてしまってはもったいない。もっと知りたいし、自分でも触れてみたい。だから、自分の仕事という狭い世界に閉じこもってはいけない・・・そう思うようにしている。U-29は非常に良質なドキュメンタリーなので、同世代の若者に限らず、多くの人に見て欲しいオススメの番組である。


数年後の自分が思い描けない・・・なんてのはよく耳にするセリフだが、そんなのは思い描く必要はないし、そもそも将来なんてものは存在しない。存在するのは常に「今」だけであり、時間の経過とは、今が少しずつ形を変えていくということに過ぎない。我々は常に、今を生きることしか出来ないのだ。将来というものが存在して、耐え忍んでいればそれがいつかやってくるというふうに考えると、最も大切なかけがえのない「今」を無駄にしてしまうことになりかねない。「今」を犠牲にしてはならないし、若い時であれば一層のこと今この時を大事に使わなければならない。それをくれぐれも肝に銘じて、今の自分が挑むべき「戦い」に臨んでいきたいと思っている。

(60分)