夕飯

食べる。
夕飯を食べる。
痛いほど静かなリビングで、独り、夕飯を食べる。

妻はもう寝てしまった。
帰宅した時には、すでに寝てしまった後だった。
焼き魚と、ポテトサラダと、キャベツとひき肉の醤油炒めと、それとご飯が、ダイニングに置かれていた。
手の込んだ料理を作ってくれた妻への感謝と敬意、それにも関わらず帰りが遅くなってしまったことへの自責の念から、コタツに正座して食べる。
テレビは点けず、ただ静かに、食べることに専念する。
一口一口を、よく味わいながら、ゆっくりとしっかりと噛み締める。
そうしているうち、普段は忘れがちな食べ物への、命への感謝を思い出して、自然と猫背がちの背筋が伸びてくる。
自分は食べ物になった命に生かされ、妻に支えられていることに改めて気付かされ、心の中でありがとうと念じ頭を下げる。

独りの夕飯は、大事なことを教えてくれる。
だけど、やっぱり、独りだけでは物足りない。
一番大事な調味料が欠けている。
妻と過ごす時間というスパイスが、欠けている。
それが足りない味気なさは、どんなものでも補えない。

明日の夜こそは、何を差し置いてでも、とにかく早く帰ろう。
妻と一緒に夕飯を食べるために。
そして、妻にプレゼントしよう。
満面の笑みを、おいしいという言葉を添えて。


(携帯、30分)
智恵子抄を読んだことに触発されて、詩風の散文を書いてみた。