夫婦喧嘩

夫婦関係は、嵐の海に浮かぶ船のようなもの。一難去ってまた一難の果てなき繰り返しだ。たった一つの軽率な発言、無計画な行動は、妻の逆鱗に触れ、自分のメンタルを一瞬で窮地に陥れる引き金となる。一時の凪の海に油断して、そのことを忘れていたら、痛い目に遭ってしまった。


今日は先週土曜のセンター試験出勤の振替休日だった。貴重な平日休みを最大限利用すべく、友人を誘って早朝から二人で白馬八方尾根スキー場に滑りに行った。このスキー場は3年ぶり2回目の利用だが、広大で変化に富んだロングコースが特徴で、自分のお気に入りのスキー場の一つである。雪がちらつき、山頂周辺が濃いガスに終日覆われているあいにくの天気だったので、もっぱら中腹から下を滑ったが、雪質が比較的よかったのとお客が少なかったことから、思う存分滑ることができた。仕事を忘れてスキーに打ち込むことができて、いいリフレッシュになったと感じた。そして、友人と解散して、スーパーで買い物をしてから、18時過ぎに帰宅。夕飯の支度をしながら、妻が仕事から帰ってくるのを待った。妻は19時前に帰宅したので、すぐに夕飯にした。自分の数少ないレパートリーの一つである毎度おなじみのオムライスを食べつつ、二人でお互いの今日の出来事を話した。ここまでは問題なかった。問題は、食後すぐ、自分が食器を洗っているときに起きた。妻に「うちの貯金って貯まってるの?」と問われたので、「ボーナスが貯まってる」と事実を答えた。これが、妻の逆鱗に触れた。月々の収支では貯まってないの?、そんなに余裕ないの?、これからお金がかかるのにどうするつもりなの?、そこらへんの楽観さが私には理解できない、と畳み掛けられた。終いには、秘密主義にされるなら耐えられない、このままなら実家に帰るからと言われて、こちらからの弁解の機会もなく、交渉断絶。もうこうなってしまうと、とにかく頑なで、刺激すると逆効果なのは経験から学習しているため、情報共有の怠慢ではあったけど断じて秘密主義なんかじゃない、と反論したいのをぐっと堪えて口をつぐんだ。妻は風呂から上がるとすぐに寝てしまったので、それからはリビングで一人アニメのDVDを観て気を紛らした。この件で妻に矛を戻してもらうには、具体的な行動を示して納得してもらうよりほかにない。例えば、貯金専用口座を開いて毎月数万円ずつ振り込んで、残高の増加を見せるとかいった方法だ。しかし、光熱費を含むアパート費用で手取り月給の40%が消えている現状ではなかなかそれも難しい。アパートの転居や、携帯料金の見直し、趣味の縮小など、あらゆる方法で出費を抑制しないことには実現し得ないだろう。それを伝えた上で、理解と協力を求めるのが得策か。まかり間違っても、実家に入ればアパート費用をほとんど丸々貯金できるなんて言ってはいけない。それは自分勝手にも程がある。とにかく今日はもうどうしようもないので、妻を刺激しないように、寝室に入らずコタツで寝ることにする。


夫婦喧嘩は犬も食わない、とはよく言ったものだ。当事者である夫と妻以外に、この状況を見ている客観的で中立な第三者がいないので、誰もジャッジしてくれる人はいないし、親や兄弟を含め誰にも相談できない。下手に相談すれば、かえって問題を拡大させてややこしくしてしまう。だから夫婦で互いに向き合って、分かり合えないことを前提に妥協点を見いだして行くしかない。去年は、夫婦関係の修復のために、年間通して精神的思考的リソースと時間的リソースの40%くらいを使っていたように思う。自分のリソースをそれだけ多く割かなければ、とてもじゃないが結婚は維持できなかった。お互いのバックグラウンドが全然違うから、言わなくても分かるはずとか、放っておけばそのうちよくなるとかいうことはあり得ないのだ。だから、自分に不満を募らせる妻の忍耐に対し、自分が自分を変える努力をして応えるしかない。それはこれからもずっと続く関係であろう。メンタルが挫けそうになるときもあるが、粘り強く、決して諦めず、嵐の中で踏ん張って行くつもりである。

(携帯、50分)