解放

1ケ月間も装着していた右手のギプスが、今朝ようやく外された。整形外科を受診して、もう骨はほぼくっついたようだからといわれて、外してもらえたのだ。右手がギプスの封印から解放されたときの、すーっと体が軽くなったようなあの感覚は、そうそう味わえるものではない。使えなかった右手が自由になったというのは、いわばマイナスだったものがゼロに戻っただけであって、何かを得るようなプラスの出来事では決してない。だが、それでもやはり「嬉しい」「よかった」という感情がそこに伴ったのは、右手が封じられていた間の負の影響があまりに大きかったことによるものであろう。右手はまだ手首を曲げることが出来ないので、完全な回復にはほど遠い。それでも、ギプスがなくなったことで、不自由さは相当に除去されたのは間違いなかった。


今日一番嬉しかったのは、何の制約もなく風呂に入れるようになったことだった。ギプスがついていたときは、右手にビニール袋を被せて濡れないようにしていたほか、左手だけで頭を洗っていた。だから右手を湯船に浸けることが出来なかったし、頭も十分に洗うことができなかった。背中を洗うにも、弟の介助を必要とした。それが今夜は、自分一人で出来た。これが一番ありがたかった。


右手が自由に使える。たったそれだけのことが、一体どれだけ幸運で素晴らしいことであるかを、自分は今回の経験を通じて深く噛みしめることになった。五体満足であることの幸運を死ぬまで失いたくないし、それが幸運であることを常に忘れてはいけないと思う。何かを壊れないように使うのはそう難しいことではないが、一旦壊れてしまったものを直すのには、非常に多くの労力と時間とを費やさねばならない。そして、壊れたものは、時に、もう二度と元には戻らないこともある。それを胸に強く刻んで、これからの人生の戒めとしたい。

(25分)