ピアノ

自分は子どもの頃、ピアノを習っていた。確か、保育園の年長組の冬から小学6年生の3月末まで、6年半ほどの期間だったと思う。週に1回30分ほど、近所のピアノ教室に通っていた。市内のコンサートホールでの子ども向けの発表会に出たこともあったし、ヤマハだかカワイだか忘れたが、グレードテスト(ピアノの演奏技能検定)を受けたこともある。楽譜の読み方はそこで覚えたし、当時は簡単な曲はある程度弾けたように思う。ただ、自分は親から押し付けられたこの「習い事」のことを、すごく嫌っていた。というのも、ピアノの講師が怖い→失敗すると怒られる→ピアノのことを嫌いになる→家でピアノの練習をしない→上達しない→上手く弾けなくて怒られる→ピアノのことを嫌いになる・・・というような完全な悪循環に陥っており、かなり早い段階からすでにやる気を失っていたからだ。ピアノ教室に行くのが、毎回嫌で嫌で仕方なかった。それゆえに、小学校卒業を機にピアノをやめることを親に認めてもらったときは、非常にうれしかったのを覚えている。今思えばおかしな話ではあるが、当時の自分のピアノに対する姿勢はそういった消極的なものだった。


それ以来、長らくピアノを弾くことはなかった。下手なりにそこそこあったピアノの技能も、時の経過の中で完全に失われた。しかし何年か前から、「何かひとつ楽器を弾けるようになりたい」という思いを抱くようになり、それは年を経るに連れ大きなものになっていった。ギター等の楽器をやっている友人がかっこよく見えたのと、趣味で様々なアーティストたちの素晴らしい音楽の数々を聴く中で、「これを自分で弾けたらきっと楽しいだろうな」と思ったのが、主な理由だったのではないかと思う。大学時代には、電子キーボードを買って練習しようとしたことがあったが、長続きせず、結局本格的な練習はしないまま箱の中で眠らせることになった。就職して実家で暮らすようになってからは、家にある(昔使っていた)アップライト・ピアノを弾ける環境になったものの、日々のことに追われる中で、ピアノを弾こうということは(頭の隅には考えつつも)具体的な行動には移せないまま時が流れた。転機になったのは、昨年の6月、東京在住のH氏と会ったことだった。彼が「楽器の練習をして、いつか一緒に演奏しよう」的な提案をしてきたので、それなら自分はピアノを弾こうじゃないかと答えて、各自で練習することになった。それから、週に2、3回ではあるが、習慣的に独学でピアノの練習をするようになったのだった。ちなみ、H氏はギターをやるとかいう話だったのだが、その後練習しなかったので、一緒に演奏する話自体はお流れとなった。


現在、暗譜済みで両手で一応それなりに弾けるのは、ドラクエⅠの「荒野を行く」、ドラクエⅡの「ドラゴンクエスト・マーチ」「遥かなる旅路」、ドラクエⅢの「ほこら」のわずか4曲のみ。1年近く練習してこれだけというのは、あまりに少ないが、これはひとえに練習量の不足によるものだ。ピアノは家の廊下のようなスペースに置いてあることから、特に冬場は暖房がかからず寒さで指が動かなかったので練習にならなかった。全部ドラクエの曲なのは、持っている楽譜集が、「ドラクエⅠ〜Ⅲの全曲集」と「クロノ・トリガー全曲集」、久石譲の「ENCORE」の3つだけであり、中でもドラクエの楽譜が一番易しいだからだ。ドラクエの楽譜は、ピアノの習い事をやめる時に、講師からプレゼントとしてもらったものなので、かなり年季が入っている。だが、全てメロディを熟知している曲である分、練習もしやすいので、ドラクエの曲から優先的に取り組んでいるのである。独力なのでなかなか上達しないが、それでも徐々に弾けるようになると楽しいものだ。特に、片手ずつでしか弾けなかった曲が両手で弾けるようになったときの達成感というのは、それはそれは大きなものがある。自分はこれを「ブレイクスルー」と表現しているのだが、片手でしか弾けなかった時には苦痛だったのが、一度両手で弾けるようになると劇的に楽しくなる。これを励みにこれまで練習を続けてこられたと言っても過言ではない。そして、ある程度弾けるようになると、自分の演奏をほかの人にも披露してみたくなってくる。そうなると、知名度が高くて、それなりに難しい曲も弾けたほうがいいということになる。ということで、ドラクエの曲以外にもレパートリーを広げるのが、目下の課題であり、今はクロノ・トリガーの代表曲「風の憧憬」の練習に励んでいる。いつのことになるか分からないが、中期的な目標としては20曲くらいは暗譜してすらすら弾けるようになりたいと思っている。いつ聴いても涙がぽろぽろ流れてしまう、FF7の「エアリスのテーマ」も、弾けるようになりたい曲の一つだ。


更に最終的な目標は、「→Pia-no-jaC←」の曲を何曲か弾けるようになることだ。→Pia-no-jaC←は、ピアノとカホンを弾く二人組のインストゥルメンタルユニットである。昨年10月に、他機関の知人とピアノの話で意気投合したときに教えてもらったのだが、曲を聴いてそのかっこよさにしびれ、虜になってしまった。ピアノを一生モノの趣味にするために、いつか他人に披露することを意識し、小さな達成感を積み重ねることを大切にしながら、日常的な練習を地道に続けて行きたいと思う。


(80分)