無人島

無人島に持って行きたい○○」みたいな暇つぶしネタがネット上ではよく見られる(○○には本だとかゲームが入る)が、自分が本当に何か一つだけ持っていけるとしたら、多分「ライター」を選ぶだろう。もちろん作家(writer)のことじゃなくて、火が付く方(lighter)である。ガスライターでも、オイルライターでも、チャッカマンでもいいが、とにかく点火する道具を持って行きたい。一人っきりで無人島にいるのなら、野獣から身を守ったり、食べ物を焼いたり、道具を加工したりするために、火は不可欠だからだ。それと同じくらいに、ナイフもまた不可欠だが、これは骨や石を加工して作れないこともない。ライターのほうが高度な技術がいる道具である。もし、明日から1年間無人島に行くことになって(!)、大盤振る舞いで(?)衣類の他に10個までなら、何でも道具を持って行ってよい(ただし人力で運搬可能なものに限る)となれば、自分は下記のようなものを選ぶだろう。


①ライター(燃料が無くなっても火花を出す点火装置は使えるはず)
②アーミーナイフ(刃渡り20cmくらいの、ナタとしても包丁としても使えるタイプ)
③手帳サイズのノート(毎日の日記や、道具等の設計、サバイバル知識の備忘用に。独りでも書くことで気が紛れそう)
④万年筆(記録用だが、万一の際は護身用にも使える・・・かも)
⑤太陽光で充電可能な防水タイプのLED懐中電灯(欲張り過ぎか)
⑥リュックサック(そんなに容量は大きくなくていい)
⑦丈夫なロープ30m(小屋を建てるのに使う)
⑧水中ゴーグル(海に潜って魚を獲る時に必須)
⑨メガネ(これがないと何も見えない)
⑩ブルーシート(花見会場で使うような大きなもの。最初は寝床用、小屋が出来たら屋根の防水に使う)


・・・ということで、あんまり面白みも斬新さもなく、一見無難で堅実そうな、しかし現実の無人島で本当に有効か、必要なのか全く未知数なものも多く含まれるリストになった。実際の無人島生活を経験した後でリストを作り直したら、①と②以外はだいぶ大きく変わることだろう。文明の毒にどっぷり侵された便利極まりない生活をしている自分の貧弱な想像力では、所詮この程度のものしか挙げることが出来なかった。かといって何か突拍子もない道具やその他のアイデアを思いつくほどのセンスもなかった。結局のところ、現実に無人島に放り込まれたら何を持っていたところで一人で生存出来るはずもないのであり、数人で雑談をするときの話のネタとしてならともかく、一人で頭をひねってみたところで無為なことだという結論にならざるをえない。


そもそも、無人島生活というアドベンチャーを体験したいと思っている訳でもない。虫だとか、不潔な環境だとかは苦手だ。ただそんな環境でもいざとなったら生きていけるように、自分は、携帯電話だとか、ネットだとかで誰かと繋がったり頼ったりしなくても、たった独りでも自分自身の存在を保てるような、確立した自己を持ちたいと思っている。そして、自分の中に出来るだけ多くの知識や技術を蓄えておきたいとも思っている。例えて言えば、地球最後の男になっても生きていけるような、内面的に強い人間でありたいということだ。自分が最も嫌なのは、何かに依存すること、それなしにはいられないような状態になることである。タバコやSNSが嫌いなのも、依存したくないからというのが大きい。よく物語で「私にはこの人しかいない。この人のいない人生なんて考えられない」というような台詞があったりして、それはそれでドラマチックな場面ではあるが、自分としてはそういう柔軟性のない生き方はしたくないと思う。更に踏み込んで言えば、税金(というか赤字国債)のおかげで生活している今の自分の身分さえも、自力で成り立っていないある種の依存であり、究極の自立は会社を興すか自給自足の農業生活を送るかということになるのだが、さすがにそれは見果てぬ夢というものだ。自分はどんな環境でも生きていきたいし、大切な誰かを失っても、悲しむことこそあれど、絶望はしたくない。他者を尊重し、社会と適度な関わり合いを持ち、互いに支えあいつつも、何物にも誰にも一方的に頼るようなことをせず、自立した個人としての確固たる意志と、それを支える豊富な知識とを兼ね備えている・・・そんな人物像が自分の理想である。まあ、今の中途半端でなよなよした自分とはあまりにもかけ離れた理想なのだが、情報化社会の中で大量の情報に日々曝される中で、個人が思考的に他者と同質化してしまうのを防ぐためには、自分はどういう人間か、どういう人間でありたいかということを真剣に考えることが重要であるし、ネットの影響範囲、カバーする領域が日々広がっていく中で、その重要性はますます高まっていることは間違いない。


ネットが使えれば、無人島でも山奥でもどこでもいい。そんな文明に依存しきったつまらない人間にだけは、どう間違っても決してなりたくはないものである。

(110分)