二つのミッション

多くの人にとって、働くことの第一義的な目的は、生活するためのお金を稼ぐことにある。しかし、社会人になれば日常における時間の大部分が仕事のために充てられることになり、職業選択が個人の人生の在り方を大きく決定づける以上、その仕事が自分にとってどれだけの面白さややりがいがあるものなのか、また自分の携わった仕事が結果としてどのような形で、どれだけの人々の役に立ち、社会の発展に寄与するものであるのかということも、非常に重要な問題である。これは、就職活動中の学生にとっても、避けては通れないテーマだ。それを明確に考えず、自分の仕事に対して自分なりの目的意識を持たずに、ただ「仕事だから」と、黙々と我慢を重ねるような状態で働いてしまっては、長い人生を無味乾燥に消化していくようなことになってしまいかねないし、働く上でのモチベーションも高まらないだろう。少なくとも、自分はそんなふうな生き方はまっぴらごめんである。


仕事を通じて、どう社会に貢献するか。それを考えるとき、二つの観点からのアプローチがあると思う。一つは、自分の仕事が直接的、即時的に外部に与える効果や価値という観点。自分が開発に携わった商品が店頭に並んで、それを買ったお客さんが「これはいいものだ」と喜んでくれる、そうした結果がシンプルにはっきりと現れるものがこれに当たる。もう一つは、自分が所属する組織の運営上の一端を担うことによって、その組織が社会に提供している価値を間接的に支えているという観点。これは例えば、組織内での事務に専念する人などが、組織の構成員の活動をサポートすることで、彼らを通じて間接的に社会に貢献していると考えるものだ。自分に当てはめてみれば、昨年度していた地域貢献に関する仕事は、外部への効果が直接的で分かりやすいものだったので前者の観点で目的意識を持っていたし、今やっている給与計算という仕事は、他の職員が安心して働けるように毎月きちんと給料を支払うことで、縁の下で大学を支えていると考えて、後者の目的意識を持っていることになる。自分は、地元で働くためという以上の理由はなく、特段明確な目的意識もなく今の職業に就いたが、与えられた仕事をやっていく中で、その仕事に合わせた目的意識を持ち、モチベーションを得てきた。就職する前から、「何のために働くかなんて、働いてみなければ分からない」と思ってきたし、特段この仕事じゃなきゃ嫌だというのはなく、働く前から「絶対○○の仕事をしてやる!」とがっちり固めておくと、その仕事がうまく行かなかったときやそれと違う仕事を与えられた時に自分を見失ってしまうのではないかと考えていたことから、目的意識は後付けのほうが合理的だと思っていた。その柔軟な姿勢が、実際に今に役立っていると感じている。


どんな組織でも、経済活動、社会活動に参画してサービスを提供し、金銭的な対価を得ている以上は、必ず存在する意味や意義があるし、全ての仕事は直接的ないし間接的に社会に様々な価値を生んでいると言える。だから、「社会の役に立つことがしたい」と考えて、特別な行動を起こさなくては焦っている人には、仕事をすることによって自分はすでに社会に貢献しているだと、自分を認めてあげて欲しい。自分の仕事について、上記の二種類のミッション(使命)を使い分け、あるいは同時に持つことにより、全ての人が自分の人生を自信を持って歩んでいくことが出来たら、それはすごくいいことなんじゃないかと思っている。

(90分:5/8)