忌避

「本省(ほんしょう)」という言葉をデジタル大辞泉で引くと、「管下の官庁を管轄する中央官庁」とある。うちの大学では、法人化して文部科学省の機関ではなくなってから7年近くが経った今でも、文科省のことを「本省」と呼んでいる。他の国大職員のブログを読んでみる限り、これは国立大学全般で現在も用いられている呼称であるようだ。用法としては、文科省から来た電話を他の人に回す時に「本省の○○課からお電話です」と言ったり、学内の文科省宛ての郵便物をまとめて毎日1回速達で送る郵便のことを通称「本省便」と言ったりといった感じで、主に口頭で用いられる。正式な文書中の表現としては用いられはしないものの、多くの人がこの言葉をごく普通に使っている。


だが、自分はこの呼称に対して少なからず抵抗感がある。確かに大学の予算である「運営費交付金」は文科省の予算の中に組み込まれており、何かと大学評価のための調査や通達が文科省から指示されてくるが、自分が属している組織は自分の大学であり、文科省ではない。そして自分は、文科省のために仕事をするわけじゃなく、自分の大学と国全体の発展のために仕事をしているのである。文科省に与えられた指示どおりにやるのではなく、各大学が自分で考え独自性を発揮して大学を運営することで、大学の教育と研究の機能と質を高めるのが法人化の目的だったのだから、文科省への帰属意識の残存を象徴するこの「本省」という言葉は、大学組織の変革を精神的に妨げる要素である。そのため、自分はこの言葉を意識的に使わないようにし、文部科学省のことは「文科省」と呼ぶことにしている。

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