父の日

もう一週間も前の話になるが、先週の日曜は父の日だったので、父にプレゼントをあげた。プレゼントする相手が父だから、ネクタイとか、Yシャツがいいだろう、なんてのは一番ストレートな発想だと思う。だが、父ほどの年齢ともなると、そんなのはむしろ人にあげたいくらい持っているだろうし、来年以降もプレゼントするとなると、形の残るものは溜まっていく一方で、しかもうかつにゴミにも出せず、タンスの肥やしになって困らせてしまうのが目に見えている。特に、服なんて、相手に気に入ってもらえず、その場でがっかりさせてしまったら最悪だ。プレゼントと一緒に、気まずい思い出がずっと残されてしまう。そこで自分は、「すっかり消えてなくなるものがいい」と判断した。使って消えてしまうものなら、たとえ相手に喜ばれなくても、その場限りで水に流せるし、喜ばれれば、後々まで心の中に形をとどめておいてもらえる。うれしかった記憶というのは往々にして事実からどんどん乖離して美化されていくものだから、時間がたつほど「美しい記憶」へと変わっていくという寸法だ。これがネクタイなら、いつまでたっても現実のネクタイの姿のまま思い出は姿を変えず、固定化されてしまう。何より消えてなくなってしまうもののいいところは、同じプレゼントを再度送っても喜ばれうるという点だ。この特徴を備えたプレゼントの代表格といえば、やはり食品。おいしいものは何度食べてもおいしいものだ。ということで、自分は父に「缶ビールの詰め合わせ」を贈ることにした。父は毎晩ビールで晩酌しているので、ちょっと高いビールをあげれば喜ばれるかな、と思ったのである。それで15缶でウン千円するバカ高いエールビールをネット通販で購入してみた。確か「父の日 ビール」とか検索して上位に出てきたものを買ったような気がする。ビールの知識はないに等しいので、8年連続で何かの金賞を取っているという宣伝文句を見ただけで「よしこれでいいや」と安直に即断。えらく適当なものだった。それでこんなビールが届いた。



350ml缶が15本なので、想像以上に箱は小さかった。贈ったあとでは写真が撮れないと思い、プレゼントする前に箱を開けてしまった。サプライズとか、父にいかに喜んでもらえるかとか、そういうことを全然考えていなくて、「毎年何もあげてないから、たまにはあげないとちょっとアレだよな」と動機と言えないようなよく分からない動機でプレゼントすることにしたもんだから、色々と適当だった。ただ、箱を開けて内側の説明書きに書かれていた「エールビールは13度くらいの温度が飲むのに適温」という説明だけはきっちり守って、プレゼントする直前までその温度に設定された納屋の米用大型冷蔵庫に箱ごと保管したのだった。やっぱりビールは温度が大切だからね。ただ13度だと、室温に触れるとあっという間にぬるくなってしまうので、実際温度上昇を考えると、普通の冷蔵庫に入れてもよかったかもしれない。




このエールビールは「よなよなエール」とかいうブランドを筆頭に、4種類のビールが入っていた。軽井沢で作っている地ビールらしい。



父の日の夜、夕飯前の食卓で、このビールが箱ごと父に贈呈された。贈呈シーンは、「はい、これプレゼント」と言ったかどうか忘れたが、少なくとも「父さん、いつもありがとう」みたいなことは言わず、淡白なものだったと記憶している。しかし自分が自分なら、父も父で、その日の朝に「今日は何かプレゼントは用意しているのか」と聞いてくるような野暮な人なので、まあ親子同士お互い様といったところだ。その食卓では、自分が20%くらいだけ調理に関与した餃子もテーブルに上がっていたので(ビールを飲むなら餃子だろ、という自分の浅薄な発想により実現)、ちょっと飲んでみたくなり、プレゼントしたエールビールを少し味見させてもらった。苦みが少なく、のどにさらっと吸い込まれる感じで、すっきりとした味だった。なるほどこれがエールビールか(そのビールがラガービールとどう違うものなのかはよく分からないが)と納得。父が喜んでくれたかはよく分からなかったが、3缶も飲んだのだから少なくとも口に合わなかったということはないだろう。よかったよかったと自己満足して、今に至る。たぶん来年もビールを贈るだろうな。一番ハズレが少なそうだし、日本酒や焼酎などでは、父はともかく、自分が飲んでも口に合わないだろうから。

(50分)