すってんころりん

午後、髪を切りに馴染みの床屋に行ったら、今日から22日まで臨時休業するという張り紙がされていて休みだった。21日から旅行に行くから、それまでに髪を切れないと困ると思い、とりあえず別の店で切ることにした。


そうして足を踏み入れたのは、原信前の「cut-A」だった。今まで利用したことはなく、安いだけに不安も伴った。だが、卒業式前にもう一度行けばいいし、今はちょっと短くしてもらえばそれで十分かなと思って利用したのだった。


結果を言うと、値段なりに満足の行く仕上がりを得られた。が、細かいところを突っ込んでみると色々問題はあった。まず椅子に座って「どんな感じに切りますか」的なことを聞かれたところからつまづいた。いつも「短めで」とか「いつも通りで」みたいな適当な内容しか指示しないので、うっかりそれと同じ感覚のことを言ってしまったら、意志が疎通できず困惑されたのである。これはまあ自分が悪い。そこで「お任せします」というのはちょっと危険だと思ったので、「前髪は長めで横はスッキリ短めに、バリカンで刈り上げはなしで」という内容をつたなく、断片的に、どうにか伝えて、カットを始めてもらった。担当した理容師は20代と思われる若い男性で、接客も含めてあんまり経験積んでなさそうに思われた。こういっちゃ何だが、色々と雑だった。それから髭剃りと洗髪もやってもらったのだが、クセがあり固い自分の髭を剃るのは自分でも結構難しいのでどうするんだろうと気になっていた。すると理容師が「肌が弱そうなので髭は剃らないでおきますか?」と聞いてきた。床屋といったら髭を剃ってなんぼだろ、と思って驚いたが、危なっかしい手つきで剃ってもらい顎を血まみれにされても困るのでそれを受け入れ、顔の上半分とうなじの産毛だけ剃ってもらった。洗髪はゴム手袋をつけてされたので、感触的に何だか気になったが気持ちよくはあったのでこれが一番満足度が高かったかもしれない。総合調髪だったが、30分かからずにあっという間に終了。1890円払って店を出た。カットされている間、どうしてこんなに安いのだろうかと考えていたが、理由は主に二つの点にあるのではないかと結論付けた。一点は、サービスを最低限にすることによるカット時間の短さ。回転効率を上げれば客の数が増え収益は向上する。もう一点は、経験の少ない若い理容師を安い給料で雇うこと。理容業は人件費の割合が特に高いと思うので、それを抑えられれば大きなコストダウンになる。これは確証がないので真偽は何ともいえないのだが、店にいた3人の理容師はいずれも若かったし、専門学校を出たての若者に働きながら経験を積めるといった感じでアピールして安く雇っているのではないかと思われたのだ。とにかく最近勢力を伸ばしている低価格理容店の実態をこの目で確認することが出来たのはいい勉強になった。


その後は21時前まで大学のローソンであれこれ考え事。大して何も進みはしなかったが時間だけが過ぎた。


その帰り道、チャリでこけた。いつもの通学路とは別の、外灯もない薄暗い下り坂を走っている最中、途中で別の道に曲がろうとしたら、よく見えないながら雪が積もっていて、「やば!」っと思った次の瞬間、前輪が滑ってチャリが倒れ、正面に放り出されたのだ。両手をついて何とかその強烈な衝撃を受け止めたものの、背負っていたショルダーバッグは前周りをして肩から外れ目の前を転がった。ひざとひじを地面でこすったので、出血や服の破れも心配された。そして一瞬だけ転倒した姿勢で硬直した後、ゆっくり体を起こし関節がきちんと動くことや体に痛みがないことを確認。落っこちたカバンを背負いなおし、チャリを起こすと、左足の動きにぎこちなさを感じつつも再びチャリを漕ぎ出し、そろそろと走ってその場を後にした。


帰った後、明るい照明の下で損害状況を確認した。一番心配だったのは両手をすりむくことだったが、手袋をつけていたおかげで幸いにも無傷で済んだ。手袋は穴が開きもう使えなくなってしまったが、身代わりになってくれたことは感謝すべきだろう。ひざとコートの袖は破れていてもおかしくなかったが、雪がクッションになったのか濡れて汚れただけで済んだ。雪のせいで滑ったものの、結果的には雪に救われたというのは何とも皮肉なものだ。足の関節はやはり微妙に違和感はあったが、動かしてみても特に異常は無かった。ストレッチをして風呂に入ったので寝れば治ると信じたい。今日の一日はそんな感じだった。チャリの運転には細心の注意を払わねばならないと改めて思った。

(50分)