降臨

全く期待していなかったのに。


いや可能性は認めつつもおよそ現実となるとは思っていなかったのに。


やつれ果て諦めの中に沈んでいた自分にかかってきた一本の電話。それは自分にとって信じがたく、しかし何よりも待ち遠しかったものをもたらした。


それは、内定。内定が、出たのだった。


裏返りそうな声で電話を受け、それを切ったとき、自分の目に浮かんでいたのは、涙。こみ上げてくる万感の思いが、全身を麻薬のように支配し打ち震えさせた。


とうとう日常を取り戻せた、普通になれた、壁の向こうに行けた。そんな実感だった。


とにかくうれしく、何よりも安堵感が大きかった。


今日は電話を待ち続けていたが、気持ちをそれから反らそうと眼科へ行きコンタクトレンズを作るために検診を受けていた。


夕方になって自分のコンタクトを受け取り、視界が全然違う、まるで目玉を交換したみたいだ!と感動し、いつまでたっても来ない電話のことを忘れようとしていた。


そこに17時21分、まさかの電話が来たのだ。棚からぼた餅ならぬ金塊が落ちてきて、頭に直撃したくらい仰天し、胸が高鳴り、気持ちが高揚したのだった。


そのとき、自分は図書館でSと共にいた。だから電話を終えて最初に結果を報告した相手は彼だった。


次に面談することになっていたキャリアセンターに足を運んで報告。それから家族に電話。最後にごく親しい公務員仲間の友人二人にメールした。連絡して喜んでくれる相手がいることは幸せだなとつくづく感じたのだった。


これまでお世話になった多くの人にこのことを伝えたいと思ったが、一緒にいたSが飲もうといってきかないので、それは明日回しにして飲むことになった。


スーパーで、普段の安い偽ビールではない本物のビールを買い、麻婆豆腐の材料を購入。アパートに帰って飲んだら、何か格別の味のような気がした。


彼との会話も弾んだ。出会ったころの話まで遡って思い出を語り、友情を確かめた。また給料の安さとか家のこととか、将来的なことについても話した。今まで話さなかったことだし、考えられなかったことだ。彼は自分が当然受かるものと思っていたらしく、けろっとしていたが、それでも自分がやっと自由のきく遊び相手になったことに、また同じような立場に落ち着いたことに喜んでいたようだった。彼と自分では異なる部分だらけだというのに、なぜだか似たもの同士のような気がしてしまうのは不思議なものだ。


そして彼と飲んで、彼が寝た後これを書いていたらこんな時間になってしまった。


書面で確認出来ていないのでまだ正直本当に実感出来ていないし、あんな面接で内定だなんて一体どうなっているんだろうと訝しんでしまう気持ちもあるのだが、それでも今夜はきっとぐっすり寝れるに違いない。


本当に忙しくなるのは明日からだ。それを充実感で彩るために、学生生活の最後を全力で走り抜けたい、走らねばならない。そう強く思っている。

(60分)