税制

給与と所得税は切っても切り離せない関係にある。給与業務で所得税が関わる仕事としては、年末調整や法定調書の提出などが代表的だが、目立たない仕事としては退職金にかかる所得税の計算というのも自分の担当である。最近、年度末退職予定者の退職金にかかる所得税の計算を退職金の担当者から依頼されたのだが、今年の1月1日から勤続年数5年以下の役員等に支払われる退職金にかかる税金の計算方法が変わり、同時に復興特別所得税も課税されるようになったので、今まで使っていた計算表(自動計算するテンプレート)がそのまま使えなくなってしまった。それで計算表を税制改正に合わせて改修する必要が生じたので、先月から税務署に相談したり、『源泉徴収のあらまし』という給与担当者用の300ページもある手引書を丹念に読み込んだり、国税庁のHP(仕事柄よくアクセスする)を読んだりしながら新しいものを作成し、手引書の計算例と計算表の計算結果が一致することを確かめる検証作業を経て、今週ようやく完成に至った。作るのは大変だったが、一度自動計算化してしまえば以後同様の作業をするときに非常に楽になるし、間違いが防げるので、とても重宝する。自分自身にとっても、作業を通じて計算方法や制度について深い理解を得られるので、ちょうどいい機会でもある。仕事の効率化のためにも、こういう計算表の類いは色んなものを作成・更新して、随時バリエーションの充実を図っている。今回の退職金にかかる所得税税制改正では、勤続年数5年以下の役員等にかかる所得税ががくんと増えることになった。通常、退職金は税金が非常に優遇されているのだが、勤続年数5年以下の役員等に限ってはその優遇措置が廃止されたのである。国民の99%以上は知らないし、知らなくても困らないことではあるが、役員にとっては手取り額が大幅に減るのは相当ショックだろうと思われる。はっきり言って、こんなことなら役員になるんじゃなかった、と思ったとしても無理はないレベルの増税だ。復興特別所得税の創設のときにも感じたことだが、こういう重要な改正を広く周知も図らずにしらっと実施してしまうのは、いかなものかと思う。税金一般について言えることだが、国は、国民ひとりひとりに税制への理解をもっと深めてもらい、自ら責任を持って納税してもらう意識を養うことに努めるべきだと思う。最も身近な税金である所得税や住民税の仕組みすら教わる機会がなく、納税者も納税者でほとんど会社任せで積極的に理解しようとしない現状は、民主国家の在り方として異常ですらある。こんな状態だから、(特に市町村の)徴税が大変だし、徴収漏れや脱税が横行するのだ。日本の徴税コストが欧米に比べて高いと言われるのも、むべなるかなである。よく「節税」という言葉を目にするが、具体的にどんな内容なのか調べてみると、なんてことはない。それは裏技でも怪しい方法でもなく、たいてい年末調整をしたことのある人間なら誰でも分かるような所得控除にかかる当たり前なことが挙げられているだけのことが多い。いかに税金に関する知識が普及していないかということの裏付けでもある。ということで、自分としては、給与事務担当者に限らず、「一般常識」の一つとして、多くの人たちから国税庁HPの「タックスアンサー」を読んでみて欲しいと思う。きっと「へぇ〜、そうだったのか!」と今まで何となく知った気でいた色々な制度の中身について、正しい理解を得て納得すること間違いなしである。個人的には、徴税ミスの最大の原因であり、女性の就労を殖やす妨げとなっている悪しき制度である、「配偶者(特別)控除」の一刻も早い廃止を心の底から願ってやまない。


国税庁 タックスアンサー No.2732 退職金に対する源泉徴収
http://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2732.htm

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