失神

「ゴンッ」と鈍い衝撃が頭に響いて目が覚めたたとき、自分は何故か床にうつ伏せていた。あれ、もう出勤してたはずだけどな、と寝ぼけたことを考えたのはほんの一瞬のことで、次の瞬間には周りにいた人が駆け寄ってくるのを見て状況を理解した。自分は意識を失って椅子から床に倒れ落ちたのだった。


それは朝の9時前の出来事だった。健康診断の血液検査を受けるため、職場の医務室を訪れた自分は、前夜21時以降何も食べていないせいであまり元気がなかった。飲んでいいことになっている水さえ、ほとんど飲んでいなかった。そんな状態で血を取られるのは、別に普通のことだ。だが、自分は右腕から血を抜かれた直後に気が遠くなり卒倒してしまった。恐らく体をひねるようにして左半身から崩れ落ちたのだと思う。床に顔面をしたたか打ち付けた。重力に任せて自由落下したのだから、後頭部だったら危うい事態となっていたかもしれない。だが幸い打ち付けたのは顔面左側の眉毛から頬骨の辺りで、先に地面に衝いた左膝がクッションの役目を果たしたのか、顔には痛みや傷は残らなかったし目も大丈夫だった。床が平らだったのと、落下途中で机の角等に頭をぶつけなかったのも幸運だった。ただし、自分で見たわけではないので、意識が戻った直後は自分自身、頭を打ち付けたことを非常に心配して、周りの人にその時の様子をたずねたりした。その後はベッドまで肩を支えてもらいながら移動し、そこでしばらく休まされた。エネルギー不足のせいもあり頭のフラフラ感はなかなか抜けなかったが、いつまでもこうしている訳にはいかないので、30分ほどで仕事に戻った。


酒以外で意識を失ったのは、いつ以来だろう。いや酒は記憶が残らなくなっただけで、意識は残っているから、失神とは違うか。少なくともこれまでに血を抜かれたときには全く問題なかった。何故、何が原因でこうなったのかは謎だ。確かに自分は血に弱い。バイオハザード等のスプラッターなゲームは平然と出来るし、ゾンビ映画を見ても何ともないが、本物の血を見ると文字通り血の気が引いて目眩を起こしかける。だから、血を抜かれる時は顔をそらして血を見ないようにしたのだが、それでも今回のようなことが起こってしまった。また、いつ何をきっかけに気を失うかもしれないと思うと心配でならないが、医務室の職員にも言われたように「おかしいなと思ったら、倒れる前にうずくまること」が大切かもしれない。

(30分)