悠久の遺産

ユネスコが認定している世界遺産は、後世に末永く残していくべき、貴重な文化的、生物資源的価値を持った人類共通の財産だと言われているし、自分もそう考えている。だから、文化遺産であれ、自然遺産であれ、一旦登録を受けたら、人間の立ち入りを制限して資源の保護・保全を図るべきであると思う。世界遺産への登録後、急激な観光客の増加によって、自然環境や景観、歴史的建造物などが荒らされた例と言うのは、国内外において枚挙にいとまがない。日本のみならず、海外においても、観光振興に結び付ける意図で世界遺産制度を利用しようとする例は多いと思うが、これは不適切なことだと感じている。世界遺産制度の本来の趣旨から逸れているし、損得勘定から言っても、不合理である。なぜなら、観光客の増加で一時的に当該地域の経済や旅行代理店が潤っても、観光客が荒らすことによって資源的価値が損なわれてしまえば、そこから果実を得る機会を永久に失うことになってしまうからである。


世界遺産に登録されたら、まず観光客の人数を年間何人までというふうに制限し、単なるレジャーとして軽い気持ちで来る客を減らすためにレポートか何かを書かせて、本当にその世界遺産の価値を理解し、本当に真剣に体験したいと思っているかどうかを審査する。そして、資源の保護・保全にかかる費用を賄うため、必要十分かつ適切な入場料を徴収し、一定のルールを順守することを誓約させた上で、入場を認める。観光客の受け入れを行うのなら、それくらいの縛りが必要だと、自分は考えている。当然、学術研究のための門戸も別に開いておくことが必要だろう。そうした制約が無理だというなら、世界遺産への申請はしないほうがいい。


小笠原諸島世界自然遺産に登録されたというニュースを見たのをきっかけに、かねてから思っていた上記の考えをまとめた次第である。「かつてここに世界遺産があった。だが、今はもうない」・・・将来、そう言われるようなことが起こらぬよう、ただひたすら祈っている。

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