黒子

給与の計算っていう仕事は、学外の人はもちろんのこと、学内の人からもその存在を意識されることのない、完全な「黒子」役なのかもしれない。多くの人は、給料が払われるのは当たり前だと思っているし、その額がどうやって計算されているかなど一顧だにしないことだろう。ましてや、本当にその額が正しいのかどうかをチェックする人などほとんど居まい。紙の給与明細のときには、中を見ずにもらったその場でゴミ箱に捨てる人もいたし、WEB化された現在では給料日であっても給料が払われたことにすら気付かない人も少なくないだろう。管理者側からは、職員がWEB明細を閲覧したかどうかが分かるのだが、「未閲覧」の状態のままの人がなんとまあ多いことか。給与担当は、複雑で膨大な処理をして、それを念入りに一つ一つ目視でチェックして、400人近い常勤・非常勤の職員の給与計算をどうにかこうにか行っているというのに、給与明細にはただの最終的な数字しか記載されないから、それに至るまでの途中のプロセスなど誰も気付きはしない。本当に、頑張れば頑張るほど報われない仕事の代表格かもしれない。仕事の存在に気付かれるのは、給料日になっても給料が支払われないという「あり得ない」事態が起きた時くらいだろう。そんなことが起きたら、400人分の怒りの矛先が一斉にこちらに向けられることになる。役割が順調に機能している平生は特に、あるいは何ら評価されず、万が一のミスが生じた時はこっぴどく非難を受けることになるというのは、行政の仕事に通じるところがあるかもしれない。


給与計算は専門的な知識を経験的に修得していく業務なので、担当以外はほとんどその中身を理解していない。よって、他者の監視の目が届きにくい。仕事の過程を検証されるのは、せいぜい監査が入った時くらいだろう。だからこそ、例え他者のチェックがなかろうとも妥協せず徹底的に仕事をする、ある種の正義感や責任感が強く求められているのだと思う。


多少傲慢かもしれないが、自分がその要求に応えうる人間であると認められてこの仕事を任されたのだと、そういう自負を持って仕事に臨むことが大切なのかもしれない。そうした「健全な自己肯定感」を自ら確認しながら、そして担当同士で励まし合いながら、実直に仕事をしていこうと思っている。

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