壁の打破

政府、行政機関のやることは、非常に非効率だということが、近年よく言われている。無駄な支出が多い、何事にも前例主義で新しいことを行うことに対して非常に消極的である、書類手続きが多く許認可にも時間がかかる、世の中の流れに適応出来ておらず様々な制度が時代遅れになっている、特に欧米各国に比べると多くの面で後れを取っている、などなど。その中には的を射ていてまさにその通りだと思うものもあれば、感情的でそれはいかがなものかと思うようなものもある。そして後者の中には、度を越して極端な意見というのも、決して少なくはない。そうした極端な意見が出る背景には、「民間」と「行政(公務員)」の間に、相互の理解がきちんと形成されていないこと、すなわち情報と人材の流動において壁が存在していることが大きな原因として考えられる。


一般に、一度公務員になった人は定年までずっと公務員として同じ機関において勤務し続けるし、一旦民間に就職した人が公務員の世界に入ろうと思っても、公務員試験に合格するという低からぬハードルを越えなければならない。しかもそれには年齢制限があり、ある年齢を超えたら公務員になるのは非常に難しくなる。現状では、民間と行政の間での人材の往来、人事交流というのは極めて限られており、両者の特性を理解し、自分の経験に基づいて行政の在り方を客観的に分析し現実的な提言をできる人材というのは非常に少ない。一般の人にとって身近に存在しているとは到底言えない。そのため民間の人は行政の世界のことを直接は知らないし、行政の側も民間のやり方や考え方というのを十分に理解する環境にはないと考えられるのである。行政を変えるということが必要であるとすれば、そのためには民間からの一方的で一面的な批判ではなく、両者が人事交流によって相手を理解し、相互に歩み寄って、緊密な連携を図っていくという手段から始めることが、もっとも現実的で、効果的で、発展的であるのではないか。民間と行政の間で、一定の条件の下で自由に人が行き来できる制度を構築し、労働市場を拡大させ、その流動性を高めていくことは、多くの制度疲労を抱える日本という国を建て直すためには、絶対に必要不可欠なことである。現在の状態が今後も温存され、両者の間の溝がますます深まっていけば、行政の活動はいずれどこかで立ち行かなくなることだろう。


労働市場を育て転職可能性、再就職可能性、さらには起業成功性を高めることは、同時に、首を切られることを恐れひたすら一つの職にしがみついて生きるという、多くのサラリーマンや公務員の生き方に対しても、変革を生じることになるかもしれない。個人の能力というのは、多くの可能性を秘めている。彼らに起こる変革が、埋もれた多くの可能性に光を当てるものになることを、自分は信じて止まない。

(55分)