晩酌の流儀

テレ東の深夜ドラマ「晩酌の流儀」が面白い。現在、シーズン3が放送中で、Prime Videoで視聴して楽しんでいる。

 

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同シリーズを初めて見たのは昨年9月。知ったきっかけは何だったかよく覚えていないが、おそらくPrimeで膨大な作品の中から何を見ようかザッピング(というテレビ由来の言葉が妥当なのか分からないが)しているときに、偶然目に留まったのだと思う。Primeは国内・海外の作品を問わず、ありとあらゆるジャンルのドラマ・映画・アニメ等が見られるが、あまりにも見られる作品が多すぎて目移りするばかりで、逆に「よし、これだ」と強く思える未知のタイトルに出合って実際に視聴にまで至ることは少ない。「見る価値があるのはどれだろう」とひたすら探し続ける時間が長く、それをしている間にアニメの1話を見終えられるのではと感じることもしばしばだ。たぶん、本作も最初は恐る恐る見始めたのだと思うが、第1話から作品に引き込まれ、すぐにドハマリしてしまった。

 

物語としては、「1日の最後に飲むお酒をいかに美味しく飲むことが出来るか」を追求する女性を主人公とした1話完結のグルメドラマで、食事を一人で食べるという点ではドラマ「孤独のグルメ」に似ている(どちらもテレ東だ)。ただ本作は、主人公が「朝からその日の晩酌のお酒(=ビール)のことを考えている」(孤独の主人公は下戸)、「日中は会社の仕事に全力投球するが、晩酌の時間を確保するため毎日きっちり定時で帰る」(孤独は自営業なので割と時間にルーズ)、「退勤後はスポーツジムに通ったり、サウナで汗をかいたり、最初の一杯をよりおいしく感じるためにストイックに自分を追い込む」など、「孤独」とは対照的なキャラになっていて、そうした「流儀」の数々にこだわりを持ち、情熱を注ぐ姿が非常に面白い。時間管理の意識の高さという点で、自分が大いに共感できるのもプラス評価のポイントだ。とりわけ際立つのは、基本的に「晩酌の材料をスーパー等で買って、毎回自宅で自炊する」という点で、食材の調達シーン、調理シーンは、飲食店巡りがテーマの「孤独」にはない醍醐味である。中でも最大の見どころは、何といっても主人公の栗山千明がお待ちかねのビールをごくごくと喉に流し込む「飲みっぷり」と、自分で作った料理をおいしそうにほおばる「食べっぷり」だ。栗山千明のあまりにも幸せそうな顔を見ていると、こちらまで何だか幸せな気分になってきて、自然と顔がほころんでしまう。孤独のグルメは最新シリーズまで全話見てきたほど好きな作品だし、登場する料理とモノローグは楽しいのだが、見ていて画面から伝播してくる「幸せ感」は、圧倒的に本作が勝っていると言わざるを得ない。食事のときに見たら主人公に感情移入して自分が食べている料理やお酒も一層おいしく感じられそうだし、そうでないときでも、見ているだけで満腹感と満足感に包まれてしまうほどの魅力たっぷりの飲食シーン。これは本当に何話見ても一向に飽きが来ないし、この味わいは早送りやハイライトで「おいしいところ」だけつまみ食いしようとする昨今の「タイパ重視」の視聴とは全く相容れない、「間」を楽しむ芸術の極致だと言っても過言ではないだろう。自分の時間を中々取れない忙しい人にこそ、この作品の、少なくとも飲食シーンだけは、じっくり堪能して「幸せ」を感じてみて欲しいと願ってやまない。

 

ということで、本作を見て以来、すっかり栗山千明のファンになり、20年以上前の出演作「バトル・ロワイヤル」や「キル・ビル」も昨年初めて観るに至った。若い頃の初々しい演技も素晴らしいが、やはり晩酌を楽しむ大人の女性を演じる今の姿のほうが、自分の心にぐっとくるものがある。シーズン3はまだ1話を見たばかりだが、昨年のときのように一気見するのはもったいない。時間をおいて、少しずつ楽しんでいきたいと思う。

 

(60分)