追悼・すぎやまこういち先生

先週、作曲家すぎやまこういち先生の訃報がニュースで流れた。享年90歳だった。すぎやま先生は、ドラクエゲーム音楽の全てを担当されたのみならず、風来のシレン半熟英雄といったゲームの音楽、歌謡曲など、多くの作曲を手掛けてこられた。ゲーム音楽にクラシックの要素を取り入れ、社会的な認知度を高めた先駆者としての先生の功績の偉大さは、誰もが知るところであり、チャーミングで遊び心あふれる親しみやすい人柄で、多くの人からの敬愛を集めてこられた方だった。

 

先生の死去は、自分の心に大きな悲しみと喪失感をもたらした。そして同時に、深く強い感謝の念も込み上げてきた。先生が作曲した音楽、中でもドラクエの名曲の数々が自分の人生に与えた影響は、計り知れないほど大きなものだったからだ。自分とドラクエとの出合いは1999年、友人たちが遊んでいたゲームボーイの「ドラゴンクエストモンスターズ」を自分でも買ってプレイしたのがきっかけだった。自分はすぐにそのゲームの面白さとドラクエの世界観のとりこになり、友人と対戦したりもしながら夢中になって遊んだ。それと同時に、自分がもう一つ強く惹かれたのが、ゲームの音楽だった。モンスターズにはオリジナル曲とともにドラクエ1〜6までの歴代ドラクエ作品のフィールド曲が使われていた。その音楽が強く印象に残った自分は、その年末にはモンスターズのサントラを購入したほか、GB版ドラクエ1・2を皮切りに歴代ドラクエシリーズを次々とプレイし、当時のドラクエファンクラブに入会するなど、ドラクエに文字通りドハマリしていくことになる。言うなれば、自分をドラクエの世界の奥深くへと誘う最大の原動力となったのが、すぎやま先生の音楽だったのである。そうしてドラクエは、自分の人生にとってかけがえのない大きな存在にまで成長したのだが、ドラクエとともに歩んだ22年間を片時も離れず支えてくれたのもまた、すぎやま先生の音楽だった。モンスターズのサントラは自分が初めて手に入れた音楽CDだったし、その後次々と購入した歴代シリーズのオーケストラ版のCDは、多感な中学生時代を通してずっと聴き続け、受験勉強をするときにも聴いていた。ずっと憧れていた東京芸術劇場での毎年恒例のドラクエファミリーコンサートには、2006年と2010年の2回参加し、2013年にはオンライン配信で鑑賞して、オーケストラが奏でる壮大で美しい音楽に感動のあまり何度も涙した。ゲーム音楽、特にRPGの音楽には、物語の進行における様々な場面に合わせて、楽しい曲、悲しい曲、勇ましい曲、神秘的な曲など、変化に富んだ多彩な楽曲が含まれる。特にドラクエは、東京オリンピックの開会式で使われた「序曲」に代表されるように、数多くの壮大で胸打つ名曲があり、ゲームの世界の登場人物たちに命を吹き込むのに欠かせない役割を果たしている。物語の喜怒哀楽を情緒豊かに表現したそれらの楽曲は、ゲームの世界のみならず、自分自身の人生においても、自分を時に鼓舞し、時になぐさめ、時に感動をより大きなものにしてくれた。ドラクエの音楽が、すぎやま先生が生み出した音楽が、自分の人生にどれだけ多くの彩りを与えてくれたか計り知れない。先生への感謝は、いくらしても足りないくらいだし、その感謝はこれからもずっと続くことだろう。

 

先生が語った「音楽は心の貯金です」という言葉の意義と正しさは、自分の人生が証明するところだ。先生の残してくれた音楽の数々、その価値を、素晴らしさを、大事な「宝物」として、今度は次世代に引き継いでいくのが、これからの自分の果たすべき役割だと思っている。具体的には、自分の子供に、一緒にドラクエをプレイすることを通じて伝えていきたいし、ドラクエの楽曲を一緒に演奏したり、ドラクエのコンサートに連れて行ったりも出来たらいいなと思う。それが、自分にできる、自分なりの、先生への恩返しになると信じて。

 

(90分)