感傷の秋

どうしてなのか、自然というのは不思議なもので、しかし実によくできている。この10日ほどの間に、季節は一気に夏から秋へと進んだようだ。

 

9月12日には市内で最高気温34.4度を観測し、猛暑日近い日中の暑さと夜の寝苦しさに、エアコンの冷房が欠かせない日が続いていた。しかし、その後は平均気温が20度台前半、最高気温も30度以下の日が続くようになり、日中も冷房なしでも快適で、朝晩には開けた窓から入り込む風が冷たすぎて思わず身震いしてしまうほど涼しくなった。連日猛暑日だったときには、あまりにも暑すぎてもはや気温は下がらないのではないか、このまま永遠に夏が続くのではないかと錯覚するほどだったが、そんなふうに感じたことが嘘だったように、今はどこを眺めても秋を感じるものしか見当たらない。

 

黄金色にたわわと実った稲穂、どこまでも高く澄んだ青空、日一日と早まっていく日没時間、夜中に鳴り響くさまざまな虫の声。できることなら、心を感傷の海にダイブさせ、地上の喧噪と時間をしばし忘れて、月夜の下で長々と物思いに耽りたい・・・、そんなセンチメンタルな気分にさせられる。ただ、現実にはそんな「いとま」はなかなか得られない。今の自分にとっては、時間の自由こそが最も貴重で高価な贅沢品だからだ。日常で手に入るのは爪の先ほどの時間だけ。しかもそれを明日に取っておくことは叶わず、じたばたしているうちに季節はさらに進んでしまう。

 

ならばせめてもの慰めに、この場にちょっとだけ今の感傷的な心の一部を写し取っておこうと思う。何回か先の秋に、感傷という贅沢を噛みしめ味わう自分の姿があることを、ただ願って。

 

 

(40分)