飲み会インポッシブル

12月といえば忘年会シーズン、会社の飲み会では同僚みんなでどんちゃん騒ぎ・・・というステレオタイプなイメージは、もはや過去のものになりつつあるようだ。今月、トレンドワードになった「忘年会スルー」なる言葉が、会社の忘年会を忌避し、欠席したいと思っている、あるいは実際欠席している人が少なくないことを世間一般に印象付けた。だが、自分はこの言葉や、その使われ方を知って、正直なところ、かなり強い違和感を覚えた。それは、「会社の飲み会を時間の無駄と捉える人が増えた」「定時後の時間を会社の付き合いに充てたくない人が増えた」といった論調・分析ばかりが目立ち、「参加したくても参加できない人」「参加できないことを心苦しく感じている人」の存在を考慮したようなニュース記事やブログ記事等が検索上位にほとんど見当たらなかったからだ。


自分がまさにその典型だと思うのだが、乳幼児期の子育て中の親は、子供の夕食、遅くとも入浴までには必ず帰宅しないといけないので、基本的に飲み会には参加できない。飲み会はたいてい18時半から始まるが、18時台は子供の夕食の時間帯に当たるし、19時半には入浴を始めないといけないから、飲み会の開催時間帯がもろに育児のコアタイムと重なってしまうのだ。最悪、夕食だけなら片方の親がいれば済ませられるが、入浴は二人がかりがマストである。したがって、育児に主体的に参画する限り、飲み会は欠席するか、最初の30分程度だけ顔を出して途中退席せざるを得ない。自分は子供が生まれた2年前から途中退席をデフォルトとしてきたが、今年度に入ってからは欠席がデフォになった。車ですぐ帰る&子供を安全に風呂に入れるためにアルコールを飲まないし、場の盛り上がりに欠ける最初の30分だけいてもいまいち楽しめないし、食事もろくすっぽ食べられない(出てこない)から、会費負けも甚だしい。それに、職場は10年近い付き合いの人たちばかりなので、飲み会に出ると出ないとで、何か影響が出るような気を遣う関係でもない。そうなると、次第に飲み会から足が遠ざかってしまった。今年度は課の飲み会に今のところ、まだ1回しか参加できていない。当然、出たのは最初の30分だけである。家庭は仕事の100倍以上大事なので、妻にワンオペ育児をさせてまで飲み会に最後まで参加することはあり得ない。


ただ、自分はこの状況を決して好ましく思っている訳ではない。飲み会はどちらかといえば好きな方だし、かつて職場の若手のリーダー格(という表現をすることを恥ずかしく感じるほど、今は年も取ったし、存在感も低下しているが)を担っていた頃は、積極的に幹事を買って出て、色んな飲み会を企画していたから、飲み会には出来るだけ大勢が参加できたほうが盛り上がるということも分かっている。特に自分の所属部署以外の人たちが集まる飲み会(職場のバドミントン部の懇親会や夏祭りの打ち上げ等)には刺激を受けることが多いので、自分も可能であれば参加したい。たまにはパーッと楽しんでみたい。でも、やっぱりどうしても参加できない、このもどかしさ、せっかく誘われても断らざるを得ない、この心苦しさ・・・。育児や介護をしている人なら共通で感じているはずのジレンマについて、ネット上のメディアで正面から踏み込んだ言説が見当たらなかったことが、自分の違和感の原因であり、不満であった。「忘年会スルー」の言葉の裏側には、スルーから直接連想される行動を取る人たちのほかにも、自分のような人たちが相当数いるはずなのだが、世間的には一顧だにされない程度の存在でしかないのかと思うと残念だった。ただ一方で、スルー(気にしない、無視)という言葉である以上、そこまで深読みすることも難しいかもしれないし、そもそもこの言葉の対象とする範囲ではないのかもしれないという思いもあった。この言葉を使って自分が置かれている状況を説明するのは、どうにもうまく行きそうになさそうに思われた。


繰り返しになるが、家庭は仕事より遙かに大切である。会社はいつか無くなるとしても、家庭は一生ものだ。自分としては、異動1年目で毎日定時までに仕事を切り上げるという非常に困難なタスクに立ち向かい、職場を出て駐車場まで向かうときも常にダッシュして1分1秒の時間を削りながら、平日も休日も関係なく育児に全力を注いでいる。いくら飲み会に参加したい気持ちがあっても、全力の育児の前に、その気持ちが勝ることは出来ない。つまり、自分は忘年会や飲み会を「スルー」しているのではなく、飲み会に参加することがどうにも「不可能」なのである。自分を始め、多くの人が抱えているであろうこの状況をもっと理解してもらいたいという思いから、自分はこれを勝手に「飲み会インポッシブル」と名付けることにした。だからどうしてくれ、という要求がある訳ではない。とにかく、ただそういう事情なのだと理解をしてもらうだけで十分だ。その上で、飲み会ポッシブル(参加OK)な人たちには、健全な飲み会文化の発展と、居酒屋の経営の存続のために、もっと頑張ってもらいたいと願っている。いつか子供がずっと大きくなり、自分の世話を必要としなくなって、自分がそちら側に復帰できる時が来る、その日まで。

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