サイクルイベント:2013/9/7

自分にとって初めての自転車の大会は、降りしきる雨の強烈な洗礼に迎えられ、やや苦い思い出として刻まれることになった。今日参加した長野県のサイクリングイベントについて振り返ってみたい。


家を朝4時20分に出て、北陸道国道148号を駆け抜け、スタート&ゴール地点の「鹿島槍スポーツビレッジ」についたのは、6時30分ころだった。ここは山の中の運動施設で、冬はスキー場になるようだった。道中は雨だったし、この時点でも雨がぱらついていて、前途多難であることが予想された。大会本部で受付を済ませて、ゼッケンと参加賞を受け取ると、車に戻って支度を始めた。自分はすでに走れる格好だったので、車の中から自転車を下ろしてから、ゼッケンの取付と装備品の確認をした。元より雨の予報だったので、サイクルウェアの上にウインドブレーカーを着て、クリアレンズのアイウェアをかけ、デジカメも防水用のものを持参していた。なるべく身軽にするため、リュック等は背負わず身一つで走ることにした。


今回のイベントには、同僚と二人で参加した。7月初めに彼にサイクリングイベントに参加してみたいと話したところ、紹介されたのがこの大会だった。景色のよさとエイド(休憩ポイントでの補給食)のメニューが充実している点に惹かれてすぐに参加を決め、それから2カ月間ずっと楽しみにしてきた。それだけに、雨に降られたのはかなり残念だった。強い雨音が気になってしまい、昨夜はよく眠れなかったほど。雨ではまともに写真を撮れないし、びしょぬれになって走るのは気分がいいものではないことは過去に何度も体験済みだ。特に後輪が路面からまき上げる砂混じりの水の「シャワー」が尻と腰の付近に当たって体が汚れるのは不快だ。中止にならない限りは走るつもりでここまで来たが、やはり思ったほどの高揚感はなかった。それでも多くのサイクリストが集結し、色とりどりのウェアと自転車の鮮やかが目に留まるこうしたイベントというのは非日常的な空間であり、ハレの場であることから、静かなものではあるが楽しさを感じる気持ちも当然あった。



↑参加賞と同封のパンフ。同僚はアーレンキーを見て「ちょうど欲しいと思っていた」と喜んでいた。レモンジンジャー味の補給食は家に帰ってから飲んでみたのだが、ものすごく刺激が強くて思わず顔をしかめてしまった。運動中に飲んだらまずむせてしまうであろう「劇物」だ。


7時30分、開会セレモニーが始まった。市長のあいさつで、2020年の五輪開催地が東京に決まったことを知った。そういえば今朝はそれが決まる日だったな、マドリードじゃないのか、意外だ、なんて思ったが、その時の関心事はこれから走る70kmのことが全てだったので、それ以上は考えなかった。自分がエントリーしたのは、100kmを走る「ロングコース」だったのだが、雨のせいで急きょ70kmのミドルコースと同じコースに変更されていた。どんなところを走るんだろうかと同僚と話をしていたのだ。7時35分、スタート。4人一組で列になって10秒間隔で出発して行く。並び順は決まっておらず先着順だ。自分たちは5分後の7時40分に走り出した。


スタート直後に待ち受けていたのはカーブの連続する長く急な下り坂だった。前後のブレーキを交互にかけながらスピードがつき過ぎないように気をつけながら下った。雨の日だとブレーキが効きづらくなり、下り坂はカーブでスリップする恐れもあったので、神経を使った。先月ブレーキパッドを交換した前輪と、一度も換えていない後輪は、明らかにブレーキの効きが違った。後輪は制動力が弱かった。乾いている状態だとあまり差は感じなかったのだが、やはり後輪ブレーキは劣化して固くなっているようだ。帰ったら後輪も交換しなければと思った。山を下り終えて平坦な道に出たところで、いよいよペダルを漕ぎだした。



↑参加者は約630名とアナウンスがあった。定員1000名だったので、ちょっと少ないなと感じた。ただ欠場者はほとんどいなかったようだ。


最初は青木湖を左手に眺めつつ走った。それを過ぎて再び坂を下ると、辺り一面に田んぼの広がる盆地に出た。本来は北アルプスの山々の雄大な眺めが目に飛び込んでくるはずなのだが、山は白く煙っていてその姿を望むことは叶わなかった。走行中は常に同僚に先導してもらい、彼のペースに合わせて走った。レースではなく、完走することが目的のイベントなので、ほかの人たちに抜かれるのも気にせず、マイペースに走った。ただ、ほかの人たちがどういう装備をしているかなどに興味があったので、抜かれる時はその都度観察させてもらった。一番感心したのは、背中の裾の長さが腿の上端くらいまであるポンチョを着ていた人だ。上下のカッパを着ると暑いし邪魔だが、これならポンチョ1枚でお尻と腰への泥はねを防ぐことが出来る。雨の中で走りたくはないが、やむを得ない場合はこれを参考にさせてもらおうと思った。






8時26分、18km地点にある最初のエイドステーション、「白馬エイド」に到達。このエイドはジャンプ台の麓にあり、バナナときのこ汁が振る舞われていた。自分はきのこ汁を食べた。気温は18度くらいでかなり涼しい上に雨に濡れて余計に体が冷えるので、お汁は体が暖まっていつも以上においしく感じた。休憩しようにも雨をしのげる場所がなかったので、それだけ食べてすぐに出発した。



今日は500mlのDAKARAのペットボトルを1本持参していたが、20kmごとにエイドがある上、日差しがなくてあまり汗もかかなかったので、結局走り切るまでにこれ1本を飲みきることはなかった。走行中、「撮影」と書かれた黄色いベストを着て定点で写真を撮っているスタッフの人たちを大勢見かけた。ゴール後に気付いたのだが、あれはあとで写真を注文出来るサービスのためにやっていたものだった。TDLのスプラッシュマウンテンの出口にある写真と同じという訳だ(14年前の記憶なので今もやっているのかは知らない)。てっきり、来年の集客用に使うのかなと思っていた。まあ実際、一部はそういう用途にも使われるのだろう。しかしいかんせんこの天気では、自分の写った写真を買う人も少なかろう。ほとんどの人がレインウェアをまとっていたし、背景だってよく見えない有り様なのだから。自分も当初の思惑としては、時々足を止めて写真を撮るつもりでいたのだが、雨のせいで景色が今一つだったので、エイドと信号、一時停止以外ではほぼノンストップとなり、結果的に写真の枚数も増えなかった。また、辛うじて撮った写真も、レンズ部に雨粒が付いてしまっていて、よく写っていないものが多かった。きちんと写真が撮れなかったのは、個人的にかなり残念だった。ふと気付くと、さっき走ったのと同じ道を反対方向に走っていた。そろそろ後半に差し掛かりつつあった。



↑全然山が見えない。


9時30分、40km地点にある「やなば駅エイド」に到達。ここは野菜が豊富だった。サラダバーみたいな感じだ。あったかいものが欲しいなぁと思ったが、食べないのはもったいないので、きゅうりを取って味噌をつけて食べてみた。このしょっぱさは、運動で汗を流しているときには一層おいしく感じる。ここでDAKARAが少し減った。この辺りを通過したときが、一番雨が強かった。自転車を降りるとアイウェアのレンズが湿気で曇ったが、再び走り出すと徐々に晴れた。どうやら風を受けると晴れる仕様の製品のようだ。




↑じゃがいも。皮ごとまるごと食べた。



50kmを越えたあたりから、左足に筋肉痛を感じ始めた。昨日の野球大会の試合・・・ではなく、空き時間にやったテニスの疲労が響いたようだ。テニスなんてほとんどやったことがないのに、いきなり1時間半もみっちりやってしまったので体に負担がかかったのだろう。タイヤが跳ね飛ばす水しぶきを嫌って、サドルの座りが浅くなっていたのも姿勢としてよくなかったのかもしれない。体力的にはまだまだ全然大丈夫だったが、足が痛くてはスピードは出せない。前を走る同僚にお願いして、26km/hくらいだった巡航速度を22km/hほどに落としてもらった。レースじゃないし、あんまり急いで走ってすぐゴールしてしまうのももったいない、というのもペースを落としてもらった理由の一つだった。これによってずい分と楽になった。



木崎湖。湖面のすぐ近くの道を走った。コースアウトしたら湖にドボンだ。



10時20分、56km地点の「大町温泉郷エイド」に到達。ここはドライブインの建物の中にエイドが用意されていて、雨をしのいで休むことができた。白米のおにぎりに自分でみそや梅干しを選んで味付けして食べるものや、なすやきゅうりの漬物、りんご、中学生が職場体験で作ったという一口ドーナツ、スプーンで食べる豆腐、桑茶など、今までで一番種類が豊富で充実したエイドだった。それだけに休憩していた参加者の人数も多くて賑わっていた。運営スタッフの中に子どもがまじっていて、「ドーナツいかがですかー」などと声をかけていたのも、ほほえましかった。豆腐は持ち帰りも可能だったが、リュックがなかったので残念ながらそれは叶わなかった。大会名の書かれたプレートを持っているスタッフの人がいたので、プレートを借りて同僚と二人で写真を撮ってもらった。いい記念になった。ここで20分もの間休憩しているうちに、雨はかなり小降りになってきた。



最終エイドを出発すると、あとはゴールを目指すのみとなった。体力的にも時間的にも十分余裕があったので、同僚と声をかけあいつつ、のんびりと走った。道は徐々にゆるやかな上り坂になったが、雨はほとんど止んでいたので、景色に目をやりつつ走る余裕もあった。沿道には、ソバ畑が広がっていて、長野らしさを感じた。残り2kmほどのところで、上り坂の勾配が突然急になった。これが最後の難関らしく、「ラストスパートをかけるなら今でしょ!」などと書かれた看板が目に入った。そんなことを言われるまでもなく、自分もペダルを踏む力を強めていた。この程度の坂、スタート時に下った坂に比べたら全然大したことないぜ、と息を上げつつも強気で進むと、急に視界が開けて駐車場が現れた。どうやらもうゴール地点らしい。70kmってあっけないなーと思いつつ、11時30分、ゲートをくぐってゴールした。腕時計で計測したタイムは、3時間50分、走行距離は約67kmだった。



ゴール後、エイドで小腹を満たしてから、本部のテントに行って「完走証」という紙を受け取った。100kmは走り損ねたので、「ロングコース100km」という記載内容は走った証明の体を成していないが、それでも参加した記念としては大切なものだ。それだというのに、雨の降る中にも関わらず、薄っぺらい紙を封筒にも入れず裸の状態でぽんっと手渡されたので、テントを出るとすぐに雨で濡れてふやけてしまった。元々雨が降るのは分かっていたのだから、ビニールで包むくらいのことはしておいて当然だと思うのだが・・・。運営側にその辺の気配りが感じられなかった点は、非常に残念だった。




ゴールから駐車場に引き返すと、すぐに撤収の支度にとりかかった。まず雨で汚れた自転車の車体とホイールの砂や泥を雑巾で徹底的に拭き取り、車の中を汚さないよう車内に新聞を敷き自転車に袋を被せて、慎重に車載。次に、汚れた服を脱いで体をよくタオルで拭いてから、服を全て着替えた。一つ致命的な失敗だったのは、替えの靴やサンダルを持ってきていなかったことだ。服は着替えてさっぱりしたが、靴はそのままずぶ濡れのものを履き続けるほかなく、これが非常に不快だった。気が回っていない点は自分も同じだった。最後に荷物を整理して、帰り支度は終了。同僚は自分よりずっと場数を踏んでいるだけあり、自分より先に片づけを終えてラジオを聴いていた。そうしている間にも、ゴールする参加者が駐車場の中を走り抜けて行ったが、今回のイベントには閉会式がなく、これ以上残り続けたところで何かあるわけでもなかった。12時15分、車のエンジンをかけ帰途に就いた。


その後は、帰り道にあった道の駅で昼食と入浴を済ませ、そこで同僚と解散。16時半前に帰宅した。100km走っていたら帰宅は夜になっていて、翌朝の疲れが大変になるであろうところだったが、思いのほか早く帰ることが出来たのは不幸中の幸いだった。


今回の経験を通して思ったのは、「サイクルイベントは楽しいが、雨が降るとかなり辛い」ということと、「自転車を車に積んで遠くに出掛けるのは、自分が求める自転車の在り方とちょっと違う」ということの2点である。前者については上述したので、以下では後者について整理したい。自分の足と自転車だけで家からどれだけ遠くまで行けるか、というワクワク感と、無事家に帰れるかどうかという不安感こそが、自分が自転車に乗ることに対して感じる楽しさの原点にあるのだと思う。それを車という手段を使って、化石燃料を消費して、いとも簡単に遠くまで「ワープ」してしまうことは、何だかヘンだなと感じた。自転車は、「ホビー」である前に、「化石燃料に頼らない自立した乗り物」でなければならない。車に積んでこうしたイベントに出かけることは、自分の自転車認識に対して順番を間違えた行動だった。そのため、参加した後になって自分のやったことに違和感を覚えたのである。ほかの人たちが自転車をもっぱらホビーとして使うことに対して何か意見を言うつもりはもちろん毛頭ない。ただ、自分自身の行動として、「自転車を車に積み、遠くに持って行ってそれに乗る」というのは、自分の道理に合わないということに気付いたのである。従って、今後サイクルイベントに参加する際は、自転車で走るか、電車を使うかして、車に頼らず現地まで行くことになるだろう(自分の中では、電車は自転車と競合しない)。そもそも、「今日は晴れてるし、ちょっと走ってくるか」という気軽さが自転車で出かける動機になっているので、イベントの場合に「雨だろうが何だろうがとにかく行かなくては」という堅苦しさが伴うのも何だかおかしい。強制されるのはとにかく嫌なのである。次があるのかないのかは今のところ未定だ。ただ、ともかくとして、この手のイベントがどういったものかというのを実際に経験できたのはとても有意義なことだった。それと今年中にもう1回くらい、同僚とツーリングに出かけてみたいと思う。

(40分+80分+40分+15分+70分=245分:9/8〜18)